第79話 ドスケベな彼女
★★★(クミ)
私たちの宿泊する宿屋は、村で一番大きい宿屋で。
夕食は、畳敷きの大部屋で全員一緒。
簡単に言うと宴会状態だった。
お酒は出なかったけど。
だって、飲酒習慣あるの、この中でサトルさんだけだったし。
センナさんが飲まないのに、オマケでついてきたサトルさんのためにお酒を用意してもらうのは変だから。
全員お茶を飲むことになった。
まぁ、不満は無かったけど。
サトルさんも、お酒に目が無いってわけじゃなくて、嗜む程度にしか普段は飲まないし。(出会ったときは、やけ酒でがぶ飲みしてたんだけどね)
前に「普段はお酒はたくさん飲んだりはしないんですか?」って聞いたら
「飲んで酔ったら、クミさんとの時間をちゃんと楽しめなくなるだろ」
って言われて
そこでまた、ちょっと嬉しかった。
まぁ、惚気るのはこの辺にして。
大きな丸い食卓を囲んで座る。
テーブルには七輪や鍋があって、期待が高まっちゃう。
今日の宴会の品目は、ダチョウの肉料理。
ラインナップは
すき焼き
ステーキ
焼肉
肉、肉、肉。
肉尽くし。
楽しみ。
豚や鶏、牛は経験あるけどね。
ダチョウ……はないかな。
ちょっと見た目が違うダチョウだけどね!
「サトルさんはすき焼き好きですか?」
「あまり食べたことは無いかな。牛肉は高いしね」
豚肉か鶏が一般的ですもんね。
やっぱりそうですか。
豚肉ですき焼きは普通しないからねー。
私は隣に座ってる浴衣姿のサトルさんと、料理について会話した。
私もお風呂上りなので、浴衣姿。
部屋は私たちだけ別に取ってもらってるので、そのときまでの格好だけど。
……サトルさん、寺子屋時代は「女の子が好きって気持ちが分からなかった」らしく。
元々告白されやすいタイプでも無いし、こっちから告白する理由もないため、ずっと彼女居なかったらしいんだけど。
やっぱ、同年代で恋人を作ってる男の子が羨ましかったところがあったらしくて。
あの恰好をすると、嬉しいらしいんだよね。
……どんな格好?
いや、その……。
あっ、肉が来た!
肉だ! 肉が来たよ!
作務衣姿の従業員の人が、肉を運んできてくれた。
「お待ちどうさまです」
大皿に乗った肉。
すき焼き用だと思うんだ。
一緒に葱と白菜、キノコ類まで来てたから。
ダチョウの肉。
色で私はまず驚いてしまった。
だって、赤いんだもん。
鳥の肉だから、薄いピンク色かと思ったら。
牛肉を見紛うばかりの、赤色。
……脂も乗ってる風に見えるし。
これは、すき焼きにできるね……。
あとで聞いたところによると、首の肉らしい。
フィレはステーキ、腿は焼肉に最適なんだって。
内臓も美味しいらしく。
ハツが絶品らしい。
で、砂糖に、お酒に、みりんに、醤油に。
これで割り下。
あぁ、お腹減ってきた……。
サトルさんも同じだろうな……。
まず、取り分けてあげないとね。
サトルさんには出来る限り尽くしてあげたいし。
サトルさんは、結婚当初に反物くれたとき「クミさんの喜ぶ顔を見たいから買った」って言ってくれた。
この贈り物はキミのためじゃなくて自分のためにしたんだ、って。
いやそもそも、贈り物ってそういうものだって、キミのおかげで理解できた、とも言ってくれたんだ。
だったら私もそうありたい。
相手の喜びを自分の喜びにすること。
それが人を愛するってことなんだよね。
私はサトルさんにそれを教えてもらったと思う。
相手の気を引きたいとか、自分を好きになってもらいたいとかじゃないんだ。
愛しているから、喜ばせたい。
そういうことなんだよね。相手に何かを働きかけるのは。
だから私、その一点だけでもこの人のことを尊敬してるし、大好きなんだよ。
★★★(センナ)
私の前の席で、クミちゃんがサトルさんのために色々やってる。
鍋の準備をしたり、お肉を焼いたり。
「ハツは食べておいた方がいいと思います。ホルモン初心者にはお勧めですし」
「レバー、大丈夫ですか?」
……ホント、甲斐甲斐しいよね。
とても、交際期間ゼロでいきなり結婚した人の態度とは思えないよ。
やっぱ、一時の恋心でいきなり結婚するより、相手男性の性質を冷静に見極めて、自分から仲睦まじくなれるように動いた方が上手く行くってことなのかなぁ?
それはとても尊いし、喜ばしいことだと思うんだけど……
……忘れようと思ったんだけど。
どうしても、あの脱衣場で見てしまったクミちゃん夫婦の闇が頭から離れない。
どうしよう……
クミちゃんが笑顔で、サトルさんのために動き回ってるのを見ると、あのセーラー服を身に着けたクミちゃんが一体何をやっているのかを想像してしまう。
クミちゃんってさ、意外にエッチなこと平気でするんだよね。
あんなに賢そうに見えるのに。
私がクミちゃんが浮気していると誤解して、とんでもないことを主張してて。
それが誤解だと完全に分かったとき。
クミちゃん、サトルさんにメチャメチャチューしてた。
しかもほっぺじゃなくて、口に。
後で流れで聞くことがあって、教えてもらったんだけど「あれが最初のキッスだったよ」だって。
クミちゃん、他人が見てる前で夫婦の最初のキッスをしたんだ……。
すっごく、大胆。
まあ、クソ度胸のある女の子なのは知ってるけどさ。
私がろくでもない冒険者たちに、ノライヌの巣に置き去りにされたとき。
たった1人で助けに来てくれたのがクミちゃんなんだから。
今、これをすべきだ、って定めたら、迷わず行っちゃう子なんだろうね。
思い切りが良いって言えるけど……ひょっとして、頭の良い子ってみんなああなの?
考えるの失礼だって分かってるんだけど……
どうしても、考えちゃうよ……
ああいうのを着る以上、設定つけてやってるのかなぁ? とか。
設定をつけるなら、寺子屋放課後の教室だとか。
保健室の寝床だとか。
階段の踊り場で、誰か通りすがらないかドキドキしながらやっちゃうとか。
寺子屋のトイレの中とか。
……
………
いやいやいやいや!
そういうこと、想像しちゃダメだよ!
いくら友達相手でも失礼だから!
「センナさん、どうかした?」
私の箸が止まっているのを、隣に座っている浴衣姿のアイアさんが気が付いて。
そう、声を掛けてくれる。
アイアさんの浴衣姿、とっても良く似合ってる。
私が男なら、まず間違いなく1ミリ秒で求婚してる。
大きな体で、色気と、頼もしさと、凛々しさがあって。
最高。
そんなアイアさんに
「あ……ちょっと、うん、何でも無いです」
えへへ、と笑って誤魔化す。
……誤魔化せてるかな?
流石に言えないよね……流行りの寺子屋シチュの春画に出てきそうなのを、クミちゃんがサトルさんと……って想像してたって。
私だって、分別あるから。
誤魔化しついでに、私はすき焼きの肉を取り皿に取った。
タレの代わりにダチョウの卵を溶いたの。
ダチョウの卵は生で食べても病気にならないらしく、しかもそれが、このダチョウのすき焼きにあり得ないレベルで合うらしい。
楽しみだった。
ワクワクしながら口に入れると、昆布だしの風味と、まろやかな卵のコクで、素晴らしい味わい。
「あ、美味しい」
★★★(アイア)
私は、隣の席でダチョウのすき焼き肉をパクつく小柄な女の子を見下ろしながら
う~ん。
今、絶対センナさん、すごい事を想像してたと思うんだけど?
目がギラギラしてたし。
偏見かもしれないけど。
真面目な子って、結構エッチだよね。
いや、実際に行動は起こさないかもしれないけど。
頭の中はエロいこと結構考えてそう。
で、センナさんに関しては偏見じゃない。
根拠があるから。
センナさん、髪の毛が伸びるのが異様に早いんだよね。
出会ったときは野球やってる男の子みたいな短髪だったのに。
今は、長髪とまではいかないけど、伸びてきてる。
普通の人だと1カ月半くらいの長さを、2週間かそこらで駆け抜けている感じ。
ちょっと早過ぎるよね。
これはもう、間違いない。
センナさんはドスケベな女の子だ。
真面目だからこそ、いけない事に興奮しちゃうのかな?
センナさんはメシア様の神官。しかも相当高位レベルの神官だし。
メシア様は秩序の神。
しかも「法神」の大神だし。
そんな神様に愛されているセンナさんは、その真面目さについてはお墨付き状態。
だからこそ、なのかもしれない。
何がって?
それは、センナさんが高位の神官だという事。
頭の中ではとてもエッチなことを毎日考えているけど、そんな自分を制御して、抑えている。
そんな強い自制心が、秩序の神であるメシア様に気に入られているのかもしれない。
だからこそ、高位の神官なのかも。
いけないことを一切考えないよりも、考えているけど、それでも自分を抑えられる方が尊いよね。
あり得ると思うんだけど、どうかな?
……でも、クミさんに意見を求めてみたいところだけど、センナさんに聞かれたら気を悪くするよね。
考えない方がいいかもしれないな。
ドスケベであろうとなかろうと、センナさんは自分を抑えられる女の子だし、真面目な子なのも間違いないんだから。
そして。
次の日は、帰る日だった。
クミさん夫婦は、お土産もの屋さんで、日持ちするダチョウ肉の燻製を買い込んでて。
センナさんは、なんだか寝不足気味で眠そうだった。
「昨日、寝られなかった?」
そう聞くと
「ああ、ハイ。ちょっと……」
目を擦りながら。
何か考え事してたんだろうか?
ま、帰り道馬車の中で寝ればいいよ。
「準備は出来たでござるか?」
叔父様、御者の席でスタンバイOK。
いつでも出られる状態だ。
「今回は本当にありがとうございました」
ムッシュムラ村の代表だったのか。
ダチョウ牧場で案内をしてくれたタレ目の男性が、進み出てきて約束の報酬が入った小袋を渡してくれた。
中を確認して「確かに」と返す。
あとで叔父様とクミさんとで分けなきゃね。
「それでは。今度は家族で来ます」
クミさんは、馬車に乗り込んで、見送ってくれるムッシュムラ村の人々に手を振った。
……家族、か。
だったら早いうちにした方がいいんじゃないのかな?
だってさ、家族が増えたら、身動き取れなくなるかもしれないし。
……大きなお世話?
私はクミさんの言葉から自分の考えたことに、自分でツッコんで小さく笑った。
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