第70話 ムッシュムラ村

★★★(センナ)



「そーれ!」


 女の目から見ても眼福だよ……。


 目の前で、アイアさんとクミちゃんが、ボール遊びをしていた。

 海を前にして。水着姿で。


 アイアさんは、太腿が良く見える、ムッシュムラ村の名産品の水着「ハイレグ水着」

 色は白。

 大きなお胸がはち切れそう。

 胸元にスリットが入っていて、胸の谷間も良く見える。

 そのスリットをクロスで編む感じで、紐。


 アイアさん、エロ過ぎ!


 眼福だよ!


 クミちゃんは緑色の、同じくムッシュムラ村の名産品「スクール水着」

 アイアさんほどのお胸は無いけど、とてもよく似合っていた。


 クミちゃん、スレンダーボディだもんね。

 スクール水着が良く似合ってるよ!


 ここは、海沿いの観光地「ムッシュムラ村」

 私たちはここに、旅行兼仕事で来ている。


 事の起こりは、この前。

 ウチの蕎麦屋さんの常連のセイレスさんのお姉さんが、混沌神官の「呪言の奇跡」で呪われているから、その呪いを解除して! とお願いされたこと。


 事が事だし、断る理由も無いから即引き受けたんだけど、終わった後「是非お礼をさせて欲しいです」ってセイレスさんに言われて。


 セイレスさんの依頼で、ムッシュムラ村への旅行をプレゼントされてしまいました。


 で。


 ムッシュムラ村までの護衛として、クミちゃんと、アイアさんと。


 アイアさんの叔父さんの、ガンダ・ムジードさんと。


 クミちゃんの旦那さんのサトルさんと。


 ……最後のひとりは護衛じゃ無いけど、総勢5名の大所帯。


 何でそんなことになったのか?


 それは……


「クミさん行ったよー」


「はーい」


 笑顔で、ボールをトスしているアイアさん。

 その見事なプロポーションに見惚れてしまい、私の思考は中断されてしまった。

 

 アイアさん、一流の戦士だけあって、身体すっごく締まってるし。

 そして背が高くて、ボリューム満点だから。


 すっごく、あのエッチな水着が似合ってる。


 長い髪も手入れされてて、とっても綺麗。

 完璧。


 最初、ビーチに出て来た時、恥ずかしそうにしてたけど、何も恥じること無いのに。


 ジャンプするたびに、ゆっさゆっさと揺れるお胸がホントに眼福。


 はううう~。ありがたや~。


 エロ過ぎだよぉ。

 ここに男性がクミちゃんの旦那さんと、アイアさんの叔父さんしか居ないのが勿体ないよ!


 そう思ったとき。


 ……ちらりと、クミちゃんの旦那さんを私は見た。

 

 すると、その視線は、クミちゃんにしか注がれていなくて。

 さすが、大当たりの激レア旦那様だなと。

 私はそう思った。


 ここで、旦那さんがアイアさんに注目してたら、あの水着を薦めた手前、ちょっと罪悪感があったんだけど。

 杞憂だったみたい。


 ほっ。


 アイアさんと一緒に、ボールをトスし合って遊んでいるクミちゃん。

 水着で出て来たときは、アイアさんの波動に気圧されたように見えたけど。

 大丈夫だったよ! 安心して!



★★★(アイア)



 最初は恥ずかしかったけど、別に気にならなくなった。

 ここには女の子しか居ないし。


 ……正確に言うと、クミさんの旦那さんと叔父さんも居るけど、クミさんの旦那さんからの視線は感じない。

 なんというか、さすがというか。


 クミさんの選定眼のすごさ?

 大概の男、私の背の高さと、あと必ず胸を見るというのに。(背の高さは兎も角、胸を見られるのはあまりいい気はしない。当然だけど)


 だけど、クミさんの旦那さんはそうじゃなかった。


 私はクミさんがトスしたボールを、トスし返しながら、感心してしまった。

 さっすがクミさん。賢い女の子!


 ……さて。


 私たちが何故、ここで「ビーチバレー」に興じているか、と言いますと。

 別に遊んでいるわけじゃ無い。


 理由があるのだ。


 ……それは。


 この、胸が零れそうになるきわどい水着にも関わってくる。




「アイアさん、これを着ましょう」


 目的のため、クミさんと一緒に水着の選定に入ったとき。

 センナさんに勧められた。


 ……ここ、ムッシュムラ村の特産品は、種類豊富な「水着」


 海水浴が目玉のひとつの観光地だから、需要と供給がガッチリ組み合った特産品なのだ。

 その製法に関しては、謎。


 色々ある。


 布地が多いのだとか、フリフリがついてるやつだとか。

 極端に布地が少ないやつだとか……


 私とクミさんがどれを選ぶべきか悩んでいるそこに。

 センナさんが、私にそう言って来たんだ。


 センナさんとはこの間友達になった。

 クミさん繋がりで、センナさんちの蕎麦屋に蕎麦を食べに行くようになり、そこから。


 センナさんはことあるごとに「アイアさん綺麗!」「アイアさん素敵です!」って私に言って来るんだ。


 ……ちょっと、そっち系の趣味の子なのかな? と一瞬思ったんだけど。

 別にそういうわけじゃ無くて。


 センナさんの中で「理想の女性像」が私の外見らしく。


 所謂身体の凹凸がハッキリしてて。

 髪が長くて。


 ついでに言うと顔立ちも彼女の理想なんだって。


 母さん譲りなだけなんだけど。目が素敵、らしい。


 ……まぁ、褒められるのは悪い気はしない。


 一応、私が「恋人は作らない」って決めてることに関してはとやかく言うつもり無いみたいだし。

 そこだけ理解してくれてるなら、外見を褒められて悪い気はしない。


 で。


 何を薦められたのか、だけど……。


 えらく派手な水着。


 胸元が大きく開いてて。

 胸の谷間、丸見え。


 これじゃおっぱい零れちゃうぞ!


 大丈夫! 紐で補強してるから!


 そんなことを主張しているデザイン。


 下半身部分も、股の布地が少なくて。


 ……えーと。


 これを着ろと?


 着るなら、ちょっと色々やらなきゃ、だよね?


 その……ムダ毛、とか。


「……えっと、これを着ろと?」


「絶対に似合うと思います」


 ……メッチャ期待されてる。


 着てくれると嬉しいな。


 そう、目で言っていた。


 どうしよう……?


 ……クミさん、助けて。

 そう、言おうとしたところに。


 こう、言われてしまった。


「……アイアさん」


「……何?」


 センナさんは、真顔だった。

 真顔で、こう、言って来たんだ。

 水着片手に。


「アイアさんは、一流の戦士ですよね?」


「……一流かどうかは私の判断するところじゃないけど、目指してはいるね」


「……一流の戦士は、ベストを尽くさないのですか?」


「……!!」


 そんな言い方をされちゃあ……


 もう、私に断るという選択肢は無くなっていた。


 確かに、目的からすれば、この水着が一番いいのかもしれないし。

 私が結果を出せば、クミさんが頑張らなくても済むわけで。


 クミさんに頑張らせるのは、ちょっと私としては罪悪感があるから。


 ……しょうがない。やろう。


 そして私は覚悟を決めて。


 その「ハイレグ水着」というやつを身に着けた。


 ……うう。恥ずかしい。


 胸元、開きすぎ。

 見えてはいけないものが見えてしまわないかが気になる。


 ムダ毛の処理、大丈夫かな……?


 一応、この場に男性は叔父様と、クミさんの旦那さんしか居ないから。

 叔父様は当然私をそんな目で見ないし。

 クミさんの旦那さんは、奥さんの手前、凝視したりはしてこないだろう。

 ちょっとくらいは見るかもしれないけども。


 私がもじもじしながらビーチに出ると、すでに水着に着替え終わった男性陣……といっても、叔父様とクミさんの旦那さんの2人なんだけど……が待っていて。


「アイア、その水着はまずいでござるな」


 腕を組んだ叔父様、渋面。


 嫁入り前の娘が、そんな水着を着てはイカン。

 そう、言いたげだった。


 でも、仕方ないんです。


「これはしょうがないんです。叔父様」


 恥ずかしかったけど、私は腕を下ろしてすっくと立ち。

 叔父様に宣言した。


「クミさんに無理をさせるわけにはいきませんから!」


 決して言い訳に使うつもりはない。

 これは、私の本心だった。


 ……実は、この海水浴場。


 現在、実質開店休業状態になっている。


 理由は「女の子遊泳禁止」だからだ。

 女の子が居ない以上、男も寄り付かなくなってて。

 現在、このビーチには私たちしか居ない状態になっている。


 異常事態。


 何故、そうなのか?


 それは……



★★★(クミ)



 セイレスさんからのお願いで。

 センナさんに旅行をプレゼントするために、護衛の仕事を依頼されてしまった。


 旅行の行き先は、温泉と海水浴が名物の観光地「ムッシュムラ村」


 いやま「スタートの街」って名前もどうかと思うところはあるんだけど。

 ムッシュムラ村、大概だよね?


 ……コンテニュの街、だとか。

 セイリアさんが奴隷メイドとして10年くらい過ごした街は「ドッカの街」

 で、この国の首都が「王都ゴール」


 まぁ、前の世界でもエロマンガ島、スケベニンゲンって地名があったような気がするし。

 地名で突っ込むのは違うかもしれないね。


 そういうものなんだから。


 問題はそこじゃなく、別にあって。


 ちょっと今、ムッシュムラ村、ビーチが使えない状況になってて。

 その件についても、冒険者の店に依頼が来てた。


 どんな依頼か?


 それはこういうものだった。


「……ビーチにノラタコが大量のノラクラゲを引き連れて出現し、ビーチで遊んでいる女の子を襲って手籠めにしようとするから退治して欲しい」


 私はそのとき、冒険者の店の掲示板に貼り出された依頼を読み上げた。


 ノラタコ……それは、海のノラ系モンスターでは最もポピュラー。

 外見は体長2メートルを超える大タコという感じなんだけど、知性があり、人語も喋る。

 口から岩のようなものを吐き出して、男性を攻撃し、女性を捕まえては手籠めにするそうな。


 ノラクラゲは、単独ではあまり悪さはしないんだけど、他の力あるノラ系モンスターの手下として付き従い、女性のおこぼれを狙う嫌らしい魔物だ。

 外見はブルーの水ようかんみたいな頭部に、クラゲのような触手を多数生やした姿。

 マーラの奇跡を限定的なレベルで使うことができ、治癒の奇跡で他のノラ系モンスターを癒してサポートする。

 他の奇跡は使えないそうで、親分を倒せば特に恐れる魔物じゃない。


「どうする? クミさん? ついでにこっちの依頼も片付ける?」


 隣に居たアイアさんが、私を見てそう言ってくる。

 うん。当然の帰結だよね。


 だって、片付けないと海で遊べないから、センナさんを海に連れて行ってあげて欲しいっていう、セイレスさんのお願いを達成できないし。


「ですね。お金が稼げるからついでに、以外にも、片付けないとビーチを使えないわけですから」


 そう言って、今回の旅行の依頼が戦闘込みになるなーと。

 考えて。


 ……ふと、嫌な記憶が蘇った。


 そういや、センナさんとの関係がより深くなったあの出来事。


 ろくでなしパーティメンバーズ。

 今、サドガ島に島送りにされて、絶賛酷い目に遭いまくり中のあの連中。


 あの連中も、センナさんを戦いの場に連れ出して、挙句見捨てて逃げ出したんだっけ……


 なんか、それと状況が被る気がするなー。


 無論、あのろくでなしどもと同じことをする気は無いんだけど。

 状況的に似てしまうのがどうも引っ掛かる。


 ……私たちだけでいいのかな?


 センナさんを守りながら、ノラタコ率いる海のノラ軍団を討伐できる?


 ……不安になってきた。

 かとって、先にムッシュムラ村に出向いて、旅行に行く前に片付けてくる、だと。

 あまりにも効率悪いし。


 馬車使っても2日かかる距離にあるからね。ムッシュムラ村。


 どーしよー?


「……どうしたの?」


 私が唇に指先をあてて思案していると、アイアさんにそう訊かれた。

 なので、正直に言う事に。


「……ノラタコどもと戦っている間に、センナさんを襲われたら困るなと。そう思いまして」


「……あ~」


 なるほど、と。

 アイアさんは私の不安に納得してくれて。


 一緒に考えてくれる。


 さて、いったいどうしたものか。


 そして2人、並んで考え込んでいたら。


 アイアさんがこう言った。


「……叔父様にちょっと話を通してみようかな」


 ボソ、と。

 思いついたことが口から洩れた感じだった。


 アイアさんの叔父様って……ガンダさんのことか。


 確かに、ガンダさんは名前が売れてる冒険者で、昔、パーティを組んでいたときは大活躍だったそうだけど。


 ガンダさんにセンナさんの護衛をお願いして、その間に私たちで全力でノラタコたちを討伐?


 確かに、良い手かもしれない。


 ……ただ。


「確か、ガンダさんは誰ともパーティは組まない主義なんじゃ……?」


 私はアイアさんの顔を見上げて、そう訊いた。

 理由についてはよく知らないんだけど、ガンダさんはパーティで仕事をするのをしない人だった。


「拙僧が生きていく上では、パーティで仕事をする必要はござらんし、パーティでの仕事しか、修行の意味が無いなどと、そんなこともござらんからな」


 そんなことをガンダさんが言ってたのを聞いたことがある。

 そのときのガンダさんは、ちょっと、辛そうな顔をしていたのが記憶に引っかかっていた。


 多分、言葉通りの意味合いでは無いんだろうな。

 直感的だけど、私はそのときそう思った。


「でも、センナさん専属の護衛が要るでしょ。どう考えても」


「まぁ、無いと不安なのは確かですね」


 ん~。

 悩んでいると、ダメ押しが来た。


「さっきも言ったけど、私から頼んでみるからさ。任せてよ」


 アイアさん、ニッコリ。


 ……うん。


 ちょっと、抵抗を感じないわけじゃ無いけど。

 仕事にはベストを尽くしたいし。


「……じゃあ、お願いしていいですか? アイアさん」


 私は、アイアさんの提案を受けることにした。

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