告白返し!

春山 諒

第1話

「おはよー。」

私はクラスメイトと朝の挨拶を交わし、自分の下駄箱に向かう。

昨日まで中間試験だったので、今日は運動部の朝練は無いようで朝早く登校してもあまり他の生徒とすれ違わない。

こんな時は何となくいい事が起こりそうな予感がするのだが、下駄箱の蓋を開けると私の上履きの上に白い物が載っているのが見える。

私は急いで下駄箱の蓋を閉め回りを見回す。


ここが共学で私が普通の女の子だったなら、下駄箱に入っていたラブレターをクラスメイトに見られたとしても、「葵ちゃんモテるね~。」と軽く冷やかされる位で済むが、うちの高校は女子校。

そして私は男子と同じ高校に通うのが嫌で女子校のここに入った位の男嫌い。

そんな私が下駄箱に女の子からラブレターを貰ったとバレたらきっとまた面倒な事になるだろう。

と言うかもう何度か女子からラブレターを貰っていることは回りの人にはバレてて、去年は私が何度かラブレターを貰ったら「葵ちゃんはイケメンだもんなー。」と冷やかされた。

イケメンってなんだよ!?私、女の子だよ?と思ったが、ラブレターをくれた女の子達からの告白っていつも一緒。

「お姉さまになってください。」と言うのもあったし、ヒドイのになると「私の彼氏になってください。」だって。


え?付き合ったら私は彼女じゃないの?

確かに私は背が170cmあるけど、一応女子だよ?

「彼氏になって」じゃなく「彼女になって」だったら、もう少し考えてから返事したのに。


私はそんな事を思いながら、改めて回りに知り合いがいない事を確認してから、下駄箱から上履きを出しながら、急いで白い封筒を鞄にしまう。


幸い知り合いに見られていた様子はなく、ホッとして教室に向かう。


教室には既に何人か登校しているクラスメイトがいて挨拶を交わし、自分の席に鞄を掛け席を引いて腰を下ろすと、隣の席から声が掛かる。


「葵ちゃんおはよう。」

「おはよ!」

私は隣の席に座る一年からの親友である奈美に挨拶を返す。


「何かあったの?」

奈美は朝の挨拶を終えると私の仕草から察したのか前髪で隠れた眼鏡の奥の目が良く見えないまま私に質問してくる。

「えっと、後でね。」

とまあ、奈美なら冷やかさないでくれるけど、私は回りを見回しながらここでは言いづらい事を暗に伝える。


「あ、そうだね。」

奈美は私の親友だけあって言いたい事が伝わり頷いてくれる。

私は察しのいい奈美に視線を送り、鞄の中から白い封筒を取り出し席を立つ。


「奈美、すぐ戻るから。」

とだけ伝え、この時間誰も来ないであろう屋上へ続く階段の踊り場で封筒の中身を確認する事にする。

急いで教室を出て、周りをキョロキョロと見回し誰もいない事を確認してから階段に進むが、再度自分の後ろを確認する。

・・・・。

あれ?何か逆に私が怪しすぎる?

そう思いつくと、今度は背筋を伸ばし姿勢を正して階段を上る。

先程とは違い、周りをキョロキョロする事もせず階段を上り切り踊り場に着くと幸い誰もいなかったので、女子高校生としては少し背が高い姿を見えなくする為、屈みこむ。


ふー。

さてどんな内容かな?

果たし状って訳はないだろうけど、やっぱりドキドキする。

思い切って封を開け、中身を確認すると

『放課後、体育館の裏で待ってます。』

とだけ良くあるかわいい女の子の字で書いてあった。


う~ん。

名前も書いていないし、これだけだと内容が良く分からないけど、やっぱりそう言う事なんだろう。

まあ、元々部活をしていない自分は放課後はたっぷり時間があるから、すっぽかさずに体育館に行くのは誠意として当たり前か?

私は高揚した気持ちを抑えるよう階段をゆっくりと下りて行く。

階段を下りると私の教室の階で奈美がいつものように俯いて立っている。

ん?私の行動を読んで待っていたのだろうか?

「葵ちゃん、用事は終わったの?」

私は奈美の質問に頷き、試験前に約束していた絵のモデルになる話を思い出す。

「あ、前に頼まれていた絵のモデルになるのちょっと遅れるかも。」


奈美は髪で目元は良く見えないが、私の言葉に口角を上げ、

「大丈夫だよ、私も図書室で資料見てから部室に行くから。」

と了承してくれ、一緒に席に戻る。


取り合えず奈美に色々聞かれなくて良かった。

まあ、呼び出しされた後、相談するからいいよね?

そう思ってその日の授業は試験後でもある為、あまり頭に入らなかった。


放課後、私は鞄を持ち奈美に声を掛けてから教室を出ようと思ったが、余程図書館での資料を早く読みたかったのか、私が声を掛けるよりも早く立ち上がって小走りで教室を出ていく。

珍しいな。

奈美があんなに急ぐって見た事ない。

まあ、私との約束もあるから急いでくれたのかも?

そう思いながら、手紙で呼び出された体育館裏に私は向かう事にした。


どんな女の子かな?

少し期待を膨らませながら、特に急いだ訳では無かったが、自然と歩みがいつもより早まり予想より早めに目的地に到着する。

周りを見回すが誰もいなく、一瞬からかわれたのかと思ったが、私が早く着き過ぎたのだろうと体育館の壁に寄りかかる。

するとはぁはぁと言う息遣いと共に小柄な女の子が小走りでやってくる。


「す、すいません、お待たせしてしまいましたか?」

と私に声を掛けてくると言う事は、この子が手紙の主なのだろう。


「ううん、私も今着いたとこ。」

私がそう返すとまだはぁはぁと息が整っていないのか、俯いていて顔が見えない。

ほっそりとしたスタイルで背は私の顎位だから150ちょっとかな?

私がそんな風に観察していると、その子は深呼吸をし顔を上げる。


私は顔を見て息を飲んだ。

かわいい・・・。

色白で目が大きく髪は前髪を真っすぐ揃えサイドを顎の辺りで切り揃えた姫カットと言う髪型をしている。

そして制服の襟に付けている校章の色が赤である事から、1年生と言う事が分かる。

スカートの丈は長すぎず短すぎず膝が出る位で、丁度いい。

正直見た目は私の好みだ。


「あ、あのっ!」

私が固まっていたので、私を呼び出した子から声が掛かる。


「あ、うん。」

私は見惚れていた事実を隠すべく、声を出す。


「あ、葵先輩にお話があって。」

勇気を振り絞っていると言う事はその子の顔を見て分かったが、これで誰かを紹介してくれとか部活の勧誘だったら結構がっかりかもしれない。


「うん、で、どんな要件かな?」

私は1年先輩と言う事もあり、少し余裕ぶって話す。


「あ、あの。」

なかなか言いづらいのかモジモジとしだすが、

私は「えっと、この後、友達と予定があるんだけど。」と話の先を促す。


「と、突然ですみません。あ、あの、葵先輩が好きです!」

ペコリとお辞儀をされたまま、私は告白を受ける。


「ありがと。」

私は自分に対する好意とその事を伝えてくれた事に返事をする。


「そ、それで!」

「で?」

「私と結婚を前提に付き合ってください!」

その子はお辞儀をしたまま右手を差し出す。


え?結婚って?

私たち女の子同士だよ?

私は驚くような告白に考えがグルグル回る。


私が黙っていると差し出された右手がブルブルと震える。


ああ、断られると思っているのか?

と言うか私、この子の名前も知らないんだけど。


OKの意味ではないのだけど、私はその子の右手を同じく右手で握る。


「えっ!いいんですか!?」

ぴょこんと言うように真っ赤にした顔を跳ね上げるが、

「いや、まだ名前も聞いてないんだけど?」

と言う質問にその子は繋いでいた右手を離し自分の両手を胸の前でギュッと固く握りあう。


「あっ!すいません、えっと、な、なみです。」

ななみちゃんと言うのか。

字はどう書くんだろとか思っていると、ななみちゃんは上目遣いでジッと見つめてくる。


「ななみちゃんって言うんだね?」

「え、えっと、はい。」

一瞬目を丸くしたが、当たっていたのかコクンと頷く姿はいかにも女の子しててかわいいななみちゃん。


「えっと、いきなり結婚を前提って言われても、ほらお互いを良く知らない訳だし。」

そう話し始めると、ななみちゃんは断られると思ったのか、視線を落とし俯きだす。


「まあ、結婚は置いておいて、付き合う付き合わないについては、明日までに返事をするって事じゃダメかな?」

私が話し終えると、ななみちゃんは顔を上げ、即答で断られなかったのがうれしかったのかニッコリ笑うと

「前向きにご検討ください!では!」と一礼してパタパタと来た道を小走りで戻って行く。


え?

明日会う場所と時間を決めていないし、ななみちゃんは1年何組なの?

これじゃあ、返事出来ないよ?

そう思ったが、またこの時間にここに来るしかないよなと思い直し、奈美との約束の為、美術部の部室である美術室に向かう事にする。


私は奈美が図書室で資料を見てくると言っていたのを思い出し、明日どう返事をしようか考えながら美術室にのんびり向かう。


ななみちゃんは不思議な位、自分の好みのポイントを押さえてる。

何でだろ?と思う位に。


誰かに話したっけ?

ああ、前に背の低くてかわいい3年の先輩から「妹にしてください。」と意味不明な事を言われた時に奈美に聞かれた気がする。


確か「葵ちゃんはどんな女の子ならOKなの?」と言われたんだったかな?

私は「年下で清楚な黒髪のかわいい元気な女の子。」と答え

「じゃあ何で前に告白してきたかわいい年下の子はダメだったの?」

と不思議そうにしてたので、

「いや、告白内容が『お姉さまになってください。』って恋愛じゃないでしょ?」と話した気がする。

そう考えるとななみちゃんは見た目も告白の内容も今までで一番なのかもしれない。

どう返事しようかな?


色々考えながらゆっくり歩いて美術室に着いたが、まだ奈美が着いていなかった。


そうそう美術部は他の部員自体が活動していない幽霊部員ばかりと言う話だが、そう言えば奈美が私をモデルにして描く時は誰も見た事ない。

今日もまた二人きりなのだろうか?

私は窓枠に腰を掛け、外を眺めていると廊下からパタパタと小走りする音がする。


そして美術室の扉をガラッと開いて入って来たのは、ここで約束をしていた本人である奈美だった。

急いで来たのでハァハァとした息遣いなのだが、いつも見慣れた奈美と何かが違うような不思議な感覚が私を襲い、奈美をジッと見つめてしまう。


「葵ちゃん、お待たせ。」

「いや、私も着いたばかりだよ。」

奈美は小走りしたせいで少し顔が赤いが、いつもと同じように前髪で目があまり良く見えない顔を見る限り先ほどの違和感は特に感じず、奈美がイーゼルを持って来るのを眺める。


奈美は椅子なども動かしセッティングを終えると

「葵ちゃんはこっちに座って。」と片方の椅子を勧めてくる。


「ありがと、ってまた私がモデルでいいの?」

実は奈美からモデルの依頼を受けるのは今回が初めてではなく、1年の頃から頻繁にお願いされていた。

いい加減、私なんかではなく他の人を描けばいいのに。


「うん、他の人を目の前にすると緊張して描けないもん。」

そう言いながら奈美は前髪で眼鏡の奥の目を隠しながら、私を見つめてくる。


「で、奈美が緊張しない私にどんなポーズをとらせたいの?」

奈美は首を振りながら

「普通に座ってて。」と今までのモデルをした時と同じポーズを指定する。

「毎回同じじゃモデルの意味なくない?」

私は今まで思っていた疑問をぶつける。


「いいの、だって毎回葵ちゃんの表情は違っているから。」

「そう?奈美がいいならいいけど。」

私は奈美の回答に同意しながら、奈美が美術室に入って来た時の違和感を探そうと奈美を観察する。


あれ?

いつもは座っている奈美の膝がスカートから出ていなかったよな?

私はその気付いた内容を奈美に伝える。

「スカート短くした?」

奈美は私の質問に身体を一瞬ビクッと固まらせ

「う、うん。最近したよ。」と何故かビクビクしながら答える。


最近?

私が気付かなかっただけか?

あれ?でも、私がななみちゃんから貰った手紙を読んで教室に戻ろうとした時に奈美と会ったが、スカートの長さは今まで通りで膝よりかなり下だったぞ?

私が疑問の視線を奈美に向けると、

「あっ!」と奈美は驚いたような声を出し、椅子から急に立ち上がって、私に背を向けながら壁際に逃げるように移動する。

奈美は身体を隠すようにしながら、制服の襟を触っている。


一体何があったんだ?

私は奈美を追いかけ壁際に向かうと、襟の校章を外そうとしている事が目に入る。

え?奈美の校章が赤い。

私たち2年は校章が青だし、3年は黄色だ。

赤い校章は1年だが、奈美は私の同級生。

今年一緒に進級したし、何で赤?


私が校章を見つめている事に気付いた奈美は、観念したかのように私に向き直る。


「葵ちゃん、ごめんなさい!」

奈美は何故か深々と腰を折る。


「え?どう言うこと?」

奈美は眼鏡を外し前髪を上げる。

すると、髪型は違うが先ほど体育館の裏で会っていた女の子の顔が目の前にあった。


「えっ?ななみちゃん?」

「違う!」

「へっ?」

一体何が違うと言うんだ、目の前にはななみちゃんがいるのに。


「奈美って名前を言おうとしたら、つっかえて【な、奈美】と言ったら、葵ちゃんがななみって勘違いしたんだよ。」

「な、何で?」

「葵ちゃんが私って気付かなかったら、それでもいいかと思って。私卑怯だよね。」

奈美は声が少しずつ小さくなり、俯きだす。


「で、何で1年の校章?」

私はスカートの長さ以外の違いについて、奈美に確認する。


「葵ちゃんが前に年下の女の子がいいって言ってたから。」

ああ、やっぱり奈美には私の好みを言っていたんだ。

だからそれに合わせようとしてくれたのか?


「じゃあ、話し方も?」

「うん、葵ちゃんが元気な女の子がいいって言ってた。」

そっか、奈美はそう迄してくれたのか。


「体育館の裏で言った事は本気なの?」

奈美はコクンと頷き

「去年、モデルをお願いする前からずっと好きなの・・・。」

と苦しそうに気持ちを吐き出す。


奈美とはいつも一緒にいたし、気兼ねなく話せるし、これからも一緒にいたい。

そう、これって付き合う事と同じかもしれない。


私は自分の気持ちを整理する為、

「もう一度言ってくれるかな?」

と体育館の裏で言ってくれた事をリクエストする。


「葵ちゃん、私と結婚を前提に付き合ってください。」

奈美は俯いていた顔を上げ、私の目をジッと見つめる。


きっとここまで言われるって女冥利に尽きるよね?

私は今までで一番心が揺さぶられた奈美からの告白を受ける為、奈美を抱き締め

「うん。」

と奈美の告白への返事を奈美の耳元でする。


「葵ちゃ~ん!」

奈美は少し涙声で私の名前を呼び。私の身体を細い腕で抱き締め返してくる。


奈美は背が高くないし、抱き締めてると身体が華奢でかわいいな。

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