下に降り中に入る

創造者の居る世界の存在が、創造者に類する技術と知識を持っているとは限らない

 世界創造、それはこの世界では神様が為した神秘でも何でも無い。

 世界創造、だが、今自分達の居る世界が誰が為し得たのかは判明していない。

 世界創造、自分達と同じ工程で今自分達がいる世界を創造していたのであれば、彼らは神でも何でも無い存在だろうと考える。

 世界創造、それ故に自分達が創造した世界で生きている存在は、そこでちゃんと生きている存在だという事を忘れてはならない。


 科学が発達した世界に於いて、宗教と科学は同一視される。

 それは魔法も同様。

 それは何故か、理解出来ない不思議な事柄を人は魔法と呼び奇跡と呼ぶ。

 ならば、科学が進歩し理解出来ない事が無くなっていけば、宗教は科学となり、魔法は科学となる。そして、逆に科学は宗教になり、科学は魔法となる。

 それ程にまで発達した科学技術を持つに至った人類は世界創造の技術を身につけた。

 新しく創造された世界はエネルギー問題を解決し、人口の飽和を解決し、資源の問題も解決した。

 そして、余裕が生まれれば人は娯楽を求めるものだ。

 人類は自分達が創造した世界に娯楽を求めたのだ。


 天の川銀河連邦。

 その名の通り天の川銀河に存在する国家である。この連邦にとある天才科学者がいた。

 その科学者の名前はジョーム・シン。

 ありとあらゆる物質やエネルギーの素となる摩素を発見し、その実用化を行った希代の科学者。

 摩素とは、思考により発生する万能存在。

 思考形態に囚われずどの様なエネルギー的移動または物質的移動に伴われる思考でも発生する摩訶不思議な存在…摩素。

 そして、思考によりその有り様は変える事が出来、ありとあらゆる物へとすることが出来るのだ。

 そして、その摩素研究の果てに辿り着いたのが、世界創造技術の確立。

 魔法のような技術では無く、奇跡のような技術への到達であった。

 だが、そこまで進歩した技術レベルを保有していたとしても、彼らは宗教家達が夢想するような神という存在に至れる訳では無かった。

 彼らは只の人だ。

 連綿と紡がれてきた業を引き継いできた只の人。

 それは、世界創造技術を確立したジョーム・シンも例外では無い。いや、むしろもっとも業が深いとさえ言えるだろう。

 何せ彼は熱心な古代サブカルチャーオタクなのだから。


 古代サブカルチャー。

 人類が母星となる太陽系第三惑星を飛び出す直前頃に発生した価値観、サブカルチャー。

 それは、宇宙を股に掛ける様になった現在でさえも健在であった。

 事実、ジョーム・シンはそのオタク振りを発揮し、自らの主研究所を古代に存在したとされるサブカルチャーの聖地に置いている。

 とは言え、幾分として当時から相当な時間が経過している為、当時の創作された様々な物は遺失していた。

 そんな中ジョーム・シンは聖地に拠点を置き、遺失した古代サブカルチャーのサルベージ活動を趣味で行っていたのだ。

 その活動のお陰もあってか、天の川銀河連邦内でマイノリティではあるものの、古代サブカルチャー愛好家は存在する。

 そんな彼らは古代サブカルチャーを古代サブカルと呼び、日夜自らの感情を満たしているのだった。


 古代サブカルには様々なジャンルの作品があった。

 そんな中に異世界転生や転移を題材にした作品がある。

 勿論、この事はジョーム・シンも知っている。

 だから、これは必然といって良い結果だったのだろう。

 創造された世界を使用した異世界転移や転生をモチーフにした娯楽が提供される事になるのは。


 人は世界創造を成せるようになった。

 だが、彼らは決して人々が…自らが思い描くような神にはなれなかった。

 彼らは何処まで行っても欲に溺れた只の人だった。

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