仕舞う者

「怪我人が出た!後ろに送ってくれ!」

 怒号飛び交う戦場の様相、一方は学校の校舎を背にして、もう一方は深い森を背にして、方や校舎を守る為、方や校舎を攻める為の戦端が開かれている。

 そんな中にあって守る側達は厳しい戦いを強いられていた。

 異世界への転移、慣れない環境による疲弊。

 覚悟無くただ力があるという理由だけで戦闘を行わなければいけない現状。

 そんな彼らが守るのは、校舎内で隠れる何処か暗い目をした同じ学校の生徒達。

 同級生・先輩・後輩だった彼らを、戦う術を神から与えられなかった彼らを守る為の戦い。

 それは十代の少年少女達の心をする減らすには十分すぎる状況だった。

 それでも、彼らは動かなければならなかった。守るべき者達になった彼らだけでは無く、自分自身の生存を賭けて。

 後方で生活を行うべく活動する為の人員を守る為に彼らは命を賭けて戦っている。

「はい!今行きます!」

 そんな状況の最中一人の少女が戦場を駆けている。

「収容します!時間を稼いでください」

 数に物を言わせて攻勢を仕掛けてきている森に住んでいる猿に良く似た魔物により、頭部を殴られ倒された一人の生徒。

 今その動けなくなった生徒を助ける為に周囲は動き始めていた。

 周辺にいるのは粗末な仕上がりの木製の棍棒を持った緑の皮膚の猿の魔物。

 二足歩行こそ出来る様だが、直立にはほど遠い姿勢で歩き走り六商都立第六商業高等学校の生徒達と戦闘を繰り広げていた。

 周囲で前衛を担う生徒達が後方の怪我人の収容までの時間を稼ぐべく敵と相対している中、怪我人を収容しますと声を上げた一人の少女は徐に自らの制服に手を掛け、自らの腹部を空気に晒した。

 そして、怪我人を抱き上げるとその晒した腹部へと押し当てていった。

 戦闘の最中に行われる奇妙な行動だが、周囲の目はさも当然とばかりにそれぞれ行動を継続していた。

 腹部へと押し当てられた怪我人はそのままスルスルと少女の腹部の中へと入っていく。

 そう、これこそが彼女平原ひらはら小春こはるが転移時の獲得した能力ストウリングの効果だ。

 このストウリングの能力は、自らに触れた相手を対象として発動する格納能力。

 格納スペースの許す限りありとあらゆる物を収納する事が出来る能力だ。

 この力により平原ひらはら小春こはるは怪我人の後送を行ったり、後方に備蓄されている備品などを戦闘中に前線へと届けたりする役割を担っていた。

「下がります!」

 一言声を掛け後方にて待機中の治癒魔法を取得した仲間の所へと駆けていく彼女は焦る余りにある事を忘れていた。

 そんな事に一切気付かず平原ひらはら小春こはるが治療魔法の使い手の所に到着し、怪我人を格納スペースから出し任せると周囲へと意識を向け、自分が関わるべき事態が起きていないかを確認し居ている最中声を掛けられる。

「おなか見えてるよ」

 その一言を受けイソイソと、捲った制服を戻し仕舞い忘れた綺麗なお腹と背中を隠すのであった。

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