王太子に恋する女の子が頑張る話。けれど決して侮るなかれ。

突然ですが、野球ではキャッチャーのことを「女房役」と表現することがあります。
華やかに見えてマウンドで孤独に戦うピッチャーを陰から支える内助の功、グラウンドで唯一スタンド側を向くキャッチャーは「扇の要」とも言われる大切なポジションでもあります。

そしてこのお話は、そんな華やかで孤独なピッチャーである王太子の文字通りの「女房役」――つまり王妃をキャッチボールで決めようというのです。

一見すると、それはとても無茶苦茶な設定に見えます。
けれどひとたび蓋を開ければ、作者様の野球に対する知識と愛情がそこかしこに見受けられ、野球のルールすら知らないのに頑張るヒロインを自然と応援する気持ちが湧き上がって来ます。
かの有名な「シンデレラ」だって、一晩ダンスを踊った相手を探し、靴が履けたというだけで王妃になれるのです。王太子が投げる球を見事に全て取れたら王妃になれる。そんな国があっても良いと思いませんか。私は良いと思います。

でも今作のヒロインはガラスの靴の持ち主でも、生まれながらの素質を持つ名キャッチャーでもありません。
奇跡が起きるのを期待するのではなく自らの手で掴み取る為に、努力をする必要があります。

もちろん、お約束的に立ちはだかるライバルとなる令嬢もいます。
ついでに王太子は野球バカの脳筋です。それはもう清々しいくらいです。でも、それがまた良いのです(私の好きなSFFも投げるしね!)
頑張るヒロインを手助けしてくれるキャラもいます。

そう、ここまで書けばお分かりいただけるかと思います。
この作品は貴族の恋愛と野球にかける情熱とが同時に存在する、小説界の二刀流プレイヤーです。甘酸っぱいときめきと、汗と血と涙に塗れたスポ根が一作で味わえるのに胸やけしない、恐るべき作品なのです。


ヒロインの努力・友情・恋愛、それらが絶妙に絡み合いながら進む試合の結末を、あなたも一緒に見届けてはみませんか。