神代のルーン使い 第12話




グレイは今、冒険者の町内の牢屋内にいた。

牢獄に入れられた事には後悔もなにも感じない。

ただ、レイには嘘をついて悪いことをしたなとアトラの家の女将さんの部屋に戻れなかった事が悪いな、とそれが気がかりだった。

レイは一緒に親のもとに返してやりたかったが、仕方なくそれはレナに任せるしかなかった。

女将さんの家には……すでに置物をしてあるとは言え、言葉もなく突然消えた形だったのも申し訳がなかった。

昨日ここに入れられた時にグレイの武器や持ち物は全部没収されたが、そのフィジカルだけでもこの牢獄を抜け出すのはいつでも出来る。

ま、そうなったら指名手配犯となるだろう。

……いっそうそれもありかなと思いついたその時だった。

牢の隣に見える壁の向こうから何かのうごめく音がする。

グレイは早速手を動かす。

両手首に拘束具を付けられた状態で指だけを動いて『眠れ』のルーン文字がグレイの指を辿って空中に書かれる。

そして書かれた文字が消える直後――。

ドン! と、外で人が倒れる音がする。

外の警備隊が眠りで倒れたのだろう。

警備隊が倒れた後に「んん……」と、今度は逆に気を失っていた誰かが人が起きる音がする。

「あれ? ここは……僕は……」

男の声だった。

グレイは横になったまま「起きたか」と聞く。

すると「誰ですか?!」と驚いた。

「ここはどこなんです?! なんで僕が牢獄の中に?!」

目が冷めた途端牢獄の中にいるからか混乱しているようだった。

「落ち着け。 自分の名前はわかるか? 記憶とかは確かか?」

「え? 僕の名前は……デリアー・プライムです……記憶……先輩たちは……! 」

記憶を振り返ったらさらに慌ててるのがわかった。

「落ち着けって言ってんだろ。 お前には聞きたい事があるんだ」

そのためにグレイは警備の奴らも眠らせた。そもそもこれの為にわざと捕まえられたのだ。

しにても、壁越しで質問とは可笑しな話しもある。

「まず、デリアーとか言っていたな。俺はグレイだ。グレイ・ウォーカー」

「……グレイ? あの噂の?」

「噂なんか知らん。質問にだけ答えろ。いいか、今は――」

グレイはデリアーに今日の日付を伝えた。

「え? そんな……今日はーー」

デリアーは自分の覚えていた日付を問う。

グレイが言った日付より二日前だった。

「……それで、お前はその二日前に何をやっていた」

「一緒の冒険者先輩方々とのパーティで行方不明になった村の子供の調査です。……できれば救助も」

「それだけか?」

「え?」

グレイはまるで尋問するかの様な声音で訊いた。

「お前が気を失う前に、何があったのか思い出せ」

冒険者だとするんならそれもパーティを組んだのなら余程の事じゃなければ一人で……悪い予想がされるような状況となったからには理由があるはずだ。

デリアーは思い出せない記憶を思い出せようとする。

「……確か、えっと……依頼の村に到着して……森の……中で」

「森の中で?」

グレイは話しを聞きながら指を動かす。

実の所、グレイは《思い出す》意味のルーンを発動しているのだった。

……もし、思っているのが正しいのなら彼の言葉から出る次の言葉は……。

「……グレーと――」

巨大怪鳥グレートバード

まだ思い出せない感じで途切れたデリアーの言葉をグレイが正す。

……思っていた通りか。

ならば、一連の事件の目的なども大体分かってきた。

何より、あの『操』の文字。

グレイは思考を巡らす。でも、横ではグレイのその一言で反応が起きた。

「グレート……バード……先輩たち……血が……僕を……助けて……」

泣きながら……次々と記憶が蘇る。

「……あああ……あああああああああああああああああああああ……っ!!! ―――――っ」

牢獄内の石壁に頭をぶつけながら叫びを上げ、声を出なくなってから……急激に精神が崩れたかのように倒れた。

グレイの指先にはさっきと同じ透明な青い文字が空中に浮かんでいた。

『眠れ』の意味を持つルーン文字。

様子は見えないが、声が出なくなった時点でさすがに精神が持たないと踏んだ。

チッ、まだ聞く話しは他にもあるというのに。

とはいえあの様子じゃあ再度起きても同じになるだろう。

ルーン文字にも記憶を覗くものはあるけど、グレイには向いてなく、使えない。

また目を覚ますまで待つしかないか、とそのまま横になっていた体を起こそうと思うと。

ギイイイ……。

と、少しずつ牢屋の外にある門が開かれて鎧の金属音と共に騎士の声も少し聞こえる。

即座に寝たふりに戻した。

警備の交代か? と思った途端に 「うわっ! なんだこいつら!」と、男の驚いてる声が聞こえてきた。

……。

ちょうど横になっている。このまま寝ていたって事にする。

そのまま寝ていた様に目を閉じる。

「おい! 何があった!」

「……寝ている?」

入ってきた騎士二人が寝ている騎士の仲間の様子を見る。

……また刑期が増えるのだろうか。















一日が過ぎて、以外と言うべきだろうか、それとも騎士団の連中が気づかなかったんだろうか、グレイの刑期が増える事はなかった。

疑われて身分検査の再調査を受けてはした。そして今でも疑われてはいる。

けど、

他にも理由はある。

そもそも、グレイの両手首に掛けてある拘束具は魔術発動を遮断してくれる魔力遮断の魔術道具だ。

さすがに魔術を自由に使えさせるほど騎士団も間抜けではない。

今回の一件でグレイが魔術を使えると知られたので、この牢屋にきて早々付けられた。

そして騎士団にとって予想外だったのが、グレイにはそれが通じない理由があるだけで、そのグレイにとってはどうでもいい事だった。

今グレイが気にしている事は隣でまた気を失っている(グレイが気絶させた)デリアーという男がまた目を覚まして話しを聞く事だ。

まだ聞きたい事を全部聞いていない。

とは言え、昨日の質問で把握できたことはいくつもある。

……あと少しで確かになるかも知れない。

とは言え、今直ぐにはどうしようもできない。また起き上がるまで待つしかない。

そう思いながらグレイは横になったまま静かな牢屋内で退屈な時間を送っていた。

グレイの牢屋は昨日のままだ。

そしてグレイと隣のデリア―の牢屋以外にも牢屋はあるが、すべてが空いているのか、静かすぎた。

昼も過ぎて午後の何時頃になっている今、外から何かが騒ぎ出したことに気づく。

そう思った直後に、牢屋に続く外のドアが開いた。

また誰かの歩く足音に「お気をつけください!」「何者かの攻撃かも知れません!」と、誰かに向ける声が聞こえる。

「私は大丈夫です。それよりあなたたちは事前に言った通りにその人たちを連れて外へ」

この声は……この女なんでこんな所に来たんだ?

グレイのそんな考えの次に騎士たちの「――そんな!」「危険です!」とか聞こえる。

「いいから……ね?」

その次には騎士たちの「「……分かりました」」という言葉を後にちょっと掛かってから門が閉まってからは静寂じゃ流れた。

一人を除いて他の騎士たちはこの場を離れたんだろう。

「グレイさん? 眠っているんですか?」

「……」

グレイは横になっているまま無言を貫く。でも、さすがに「答えてくれないとレイちゃんに今のあなたと会わせますよ?」という言葉には反応をせざるを得なかった。

「……レイあのガキをどこに置いて着た」

少しだけムカついた念を込めて言葉にした。

「一緒に連れてきてますよ? 安心してください。私の叔父が一緒にいますから」

「……お前の叔父が誰かは知らん」

こいつ、俺を心を読む超能力者とかだと思ってないか?

「さすがにそこまでは知らないんですね。心を読む超能力者ではなかったみたいです、ふふ」

少し笑いながら「やっぱり面白いですね」とか言っている。

何がそんなに面白いのか、イラつきが増してきた。

「で、ここには何しに来た。まさか、こんな犯罪者を会いに来たっていうのか」

横にしていた体を起こしてレナ――彼女をまっすぐ見た。そしたら「はい。その通りです」と即答する。

「正しくは、使でもあなたの手助けが必要な事が出来ました。騎士たちや冒険者の皆さんには対処しきれない事件です」

「……」

嫌が予感がする。

グレイはそれが何なのか頭の中で軽く思い浮かべた。

そしてレナ――いや、彼女は頭を被っていたローブを脱ぎ、素顔を見せて、本名を口にしながら、グレイが予想出来たそれをお願いする。


「私、アルフレット王国第二王女のセレナ・アルフレットがこの名においてあなたに要請します。どうか、この町に向かってきていると確認された巨大怪鳥グレートバードの討伐にご協力をお願いします」



グレイは頭が痛くなるのを堪えながらセレナの言葉に即答できなかった。

グレートバードの事ではない。予想していた言葉だった。

しかし、目の前の彼女の本名――セレナ・アルフレット。

まさかこのいい頭をしてる割にバカやるお人よしの女が王女だったとはさすがに思わなかった。

しかも、側近が裏切り者でもある。

「……あんた、絶対高い役職には就くなよ。後先が不安になる」

「……痛いところをついてくれますね」

どうやら、シズクってメイドが裏切ったことで思う所がある様だった。

「でも、私こう見えて王位継承権を持ってるんですよ? 不敬罪で死刑ですよ?」

「そりゃいい。さっさとやってくれ」

グレイの物騒な答えに動じず「では、死刑の代わりに私の下で労役って事にしますね」と言い返す。

「死刑以上の刑罰だな」

少なくともグレイにとっては。

「むしろ前代未聞の軽い刑罰だと思うのですが」

「人間、十人の内最低でも一人は絶対に九人とは違うって教えられた。そして俺がその一人って訳だ」

「面白い話しですね。誰から教えられたのですか?」

「……師匠だ」

一瞬、師匠と言ってはっきりと嫌な奴の顔を想い出してしまった。

「お師匠さまがいたんですね! 一度顔を見てみたいです!」

「絶対やめとけ」

まるで、禁忌を振れる行為だと言っている様な勢いで即座に言葉で厳禁した。

「……あの化け物が現れたらグレートバード程度の話しじゃなくなる」

「貴方がそこまで言うって、そこまで危険な人物なんですか?」

セレナは真面目な顔で聞くと、「あれは自称人間で完全な化け物だ」と返した。

「それと、あの化け物がひと暴れしただけでスケールが違ってくる。グレートバードが町が大勢の人々の脅威なら、あの化け物はだ」

…………。

さすがにスケールが大きくなり過ぎてセレナには理解できなかった。

その様子にグレイは「それでいい。一生理解しようと思うな」と釘をつく。

そもそもグレイが人ではなく、化け物と呼ぶ時点で決して触れてはいけないのは助言でもなく忠告に近いんだとセレナはそれくらいで理解した。

「分かりました。グレイさんの師匠については触れないで置きます。でも、だったら尚更グレイさんに協力をお願いするしかないですね」

「……一つ聞いていいか」

珍しくグレイからの質問にセレナは「どうぞ」と期待の気持ちを持った。

「なんで俺だ」

セレナは期待の笑みから苦笑の顔になった。そして「私にはもう頼れる人があなたしかいないんです」と答えた。

「信じていたシズクにも裏切られて、王城でも、家族でも親戚の叔父さまを除いて誰を信用すればいいのかわからなくなったんです」

「その叔父に頼めばいいだろう」

「叔父も一応役職を持ってますし、即婚なさって家族も持っているんです」

「……そうか」

「それに、あなたはあなたが悪い人でも、疑うべき人でもなく、寧ろ優しい方だと思ってます」

「それは断固否定する」

ガキレイの前であれだけ暴力や悪口を言ったと、グレイは自分が悪い人の部類であると自覚していた。

何より、故に――。

けど、それを即に反論するように「なら、あなたはあの宿を守る理由もなかったんでしょう?」と返す。

「昨日、あの宿を襲っていた暗部を相手してたのも、あなたなら気づかれずに一人で逃げられたんでしょう? それだけではありません。レイちゃんもちゃんと守ってやりました」

「……」

レストランでの爆破。それを言っているのだと理解した。

セレナを押し倒したのもシズクが守ってやれたと思ったから。しかしレイは誰も守れないから庇った。

確かにそう思ってレイを身を挺して庇った。

グレイは心の中で認めた。

しかし、次のセレナの言葉はどうしても聞き流せられなかった。


「それと、です。レストランで私にルーンの結界を使ってくれたんでしょう?」


「…………は?」


グレイの口から呆けた一言が吐かれた。

「なんの話しだ。ルーンの結界?」

「え? グレイさんってルーン使いなのでしょう? 私もそうなんですよ」

「そこじゃねえ。俺はあの時ルーン魔術を使ってない」

「はい?」

それを聞いてセレナも妙な状況になったんだと気づいた。

セレナの顔を見て、本当にグレイの仕業だと思っていたようだった。

グレイはセレナに問う。「まず、なんの文字の結界だった」と。

「はい、確か――《愛すべき・守られるべきなり・障害を・撃つべきなり》でした」

「……そのルーン魔術の結界の色は?」

「透明な青……? いや、空色でした」

「なら確かに俺のではない」

はっきりとそれが証拠だという様に答える。

「俺の魔力色は透明な青だ。空色だと勘違いされる程ではないはっきりとした青色だ」

それが魔力の基本だ。

人は各々が持つ魔力の色があり、子供の魔力色は親の魔力色から少し変化する。

「……え、じゃあ? 本当にグレイさんではないと?」

「そう言っている……ちょっと待て」

ふと、グレイに嫌な予想と言うべきか、が頭を過った。

まず思いだした事をグレイはセレナに聞く。


「その結界……誰が解いた」


その質問は核心を付いた。


ちゃんです。手を出しただけで結界が解かれ」

「――――畜生が!!!!」

突然の大叫び。気づくべきだった点に今まで気づけなかったと悔やんでる姿。

突然の叫びに驚いてセレナは言葉も出なかった。

「セレナ! あんたの要求を呑むから今すぐここから出せ! 」

「え? 本当ですか?」

「いいから早く!」

「分かりました! 急いで出させます!」

とグレイの心変わりのおかげてすぐにも嬉しそうに外の騎士団に声を掛けにでるセレナ。

グレイは自分の呼吸が荒れていた事に気づいてそれを落ち着かせようと呼吸を整えた。


でも、もし話を聞いて思う事が確かであるのなら、レイはただの女の子供ではない。

そして、それは師匠化け物ほどではないがスケールが大きな話しとなる。

グレイは、その理由となる言葉を口にしたのだった。


「まさか……使……?」





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