神代のルーン使い 第11話
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グレイの叫びと共にレナとシズクを力いっぱい椅子ごと押し倒し、シズクが倒れるレナを受け止めたまま倒れた。
痛かったものの……それほどの痛みはない。むしろ
その一瞬にそれをグレイは見ていなかったが、レナ――セレナはそれを見た。
セレナとシズクを覆う全方向に文字が書かれた空色の魔力の壁が。
魔術による壁だとセレナは知る。
しかも……この文字は……ルーン文字?
そう思った直後に透明なルーン文字と空色の壁が消えた。
「レナ様! 大丈夫ですか?!」
ある事実に気づいたレナにシズクがすぐにもセレナの様子を伺う。
「だ、大丈夫よ。なにが起きたの!?」
ルーン文字も気になるが、状況も同じくらいに気になる。
シズクに訊きながらも倒れた体を起こしカフェテラスの周囲を見る。
グレイが引きちぎった(!)テーブルの脚と爆発の後とレストランの割れたガラス。
もはやテロの跡だった。
「彼は爆発に巻き込まれて中へ飛ばされた模様です。それより、早く身を隠して……!」
シズクの話しを聞きながらもレストランの中へ入って「グレイさん!」と叫ぶ。
レストランの中も突然起きた爆発によって大騒ぎになっていた。
その中で淡々と歩いて出たのは――レイを抱いて外へ歩くグレイ。
爆発に巻き込まれたにしては無事の様だった。
「ちょうどいい」
と、グレイがセレナを見てそう呟いては、抱いていた女の子のレイを下してセレナに任した「この子を頼む」と言った。
「グレイさんはどうするんですか!?」
「追う」
セレナの言葉に簡略に返事し、グレイは背の部分にあるナイフを一本取り出す。
そしてすぐレストランの向かいにある建物に一気に二階に足を着けてそのまま柔軟な動きで屋上にまで登ったのである。
魔術で強化した動きではない。その確証があった。
もし、魔術を使っていたら前動作が必要であり、強化された体は周囲に魔力の光が浮かんでたはずだ。
それが見えないということはグレイが強化魔術を使ってない証拠となる。
つまり、今のグレイの動きは純粋なフィジカルだったのだ。
「……レナ様、早くお隠れになってくださ……きゃっ!」
シズクにがセレナの見を隠そうとその身に触れた――急な衝撃に当たった。
セレナが驚いて「シズク?!」と叫び、近づこうとしたら……気づかないうちに消えてたルーン文字の空色壁がまた現れた。
……いや、これは消えてたのではなく消えたかの様に見えていたのだ。
「レナ様……これは……!」
「ちょっと待ってて。これなら……」
レナがルーン文字の……この結界の核に触れる。
この結界は《愛すべき・守られるべきなり・障害を・撃つべきなり》の意味を持つルーンで成り立っている。
そう。セレナもルーン文字魔術の使い手だった。
手に魔力を込めて、ルーン文字の意味を上書きし――効果を消すために文字を文字ではなくす様に4、5回上書きを繰り返す。
本に書いた文字を見えなくする様にその上に塗りつぶすのと同じ作業だが、その条件は文字の理解どころか、書いてあるルーン文字の理解とその同等以上のの魔力が必要である。
ルーン魔術の使い手。
実のところ、セレナがグレイを引き入れたい理由の一つであった。
彼と出会った夜、彼があの宿の全体に掛けたあの結界。セレナは気づけなかったけど、シズクの知らせで知った結界は……ルーン文字による結界とわかった。
明らかにセレナ以上の魔力で出来た結界だった。
そして――この結界は……。
「……‼ だめ、この結界解けない!」
やはりセレナ以上の魔力で出来ている結界。
これでは避難するも、グレイを援護するも、どれも出来ない!
……いや、もしかしたらこのままの方が。
と、思った直後に。セレナの前にいる女の子――レイが結界に触れた。
セレナがそれを目にして「だめ、触れちゃ!」と叫ぶにも……スッと、結界が解けた。
「……え?」
ポカーンとセレナが驚愕する。
今のはセレナがやってない。セレナは結界を解いた可能性を持つ彼女と面と向かい合うために体を竦める。
「……あなたがやったの?」
レイに聞いてみたことろで返事は来なくて「??」とわからないと言った顔であった。
「……なんでもないわ。ありがとう」
セレナはレイを抱いてお礼を言う。
「……」
レイも自分からなにも言うことはなく、自分を抱えるセレナの両腕に自分も同じく両腕で抱えた。
でも、直ぐにレイから離れる。
「……シズク」
「……はい」
二人が真剣な眼差しと言葉を交わす。しかしそれは……。
「……どうして私を撃つつもりだったの?」
「――お言葉が理解できないのですが……」
「とぼけないで」
セレナがはっきりと敵意を持って話す。
さっきセレナを庇ってたルーン文字の結界、その意味は《愛すべき・守られるべきなり・障害を・撃つべきなり》。
その効果は守るべき結界内の者に障害と危害を加えようとする者の接近を禁じさせ弾く。
そしてシズクは結界に入ろうとした瞬間に弾き飛ばされた。
危害もなにもセレナに向けなかったレイはとても簡単に結界がないかの様にすんなり入れた。
それはつまり、シズクが主であるセレナを攻撃しようとした事を意味する。
「……申し訳ありません」
その言葉がトリガーとなる。
セレナが何かを取り出したものの、飛んできた何かがそれに当たった。
セレナの手から落ちたのはカード。それもルーン文字が書かれた12枚のカードだった。ルーン魔術を発動しやすく加工したものである。
飛んできてカードを落としたそれは……セレナが知るそれはシズクが言うに『クナイ』と呼ばれてた投擲に特化された刃物だった。
先日――夜中の時にグレイに使った小さな刃物と同じものである。
投擲に特化した物だけあってシズクのクナイは性格にセレナの手を傷つけずカードだけを当てた。
もちろんそれはシズクの腕がすごい事もある。
そしてその実力差によってセレナは何も出来ずシズクの歩みを止める事も出来ない。
ゆっくり歩いてくる。確実にセレナの方へ。
レイを後ろにしてセレナも徐々に後ろへ下がる。
シズクがクナイを片手で握った――その時だった。
ドーン!
空から何かがセレナとシズクの間に落ちる。
縄で拘束された……全身布の男……?
否、よく見れば全身を布で包んだ男だった。
直後に誰かが着地する。
「……なにがあった」
着地した片手にナイフを握ったままグレイはすぐに状況を判断しようとするものの、さっきまで主従関係だったセレナとシズクの対立に直ぐには状況が掴めない。
この妙な状況をレストラン内の人々や周辺の住人たちが見ている。
でも5秒後――シズクからするそれで状況が理解できた。
「……ああ」
「――!!」
先にシズクが動く。握っていたクナイを投げた。グレイの顔面を目掛けて。
それがグレイの顔に当たることも掠って行く事もなく寸前でグレイの手に掴まれる。
直後にシズクがグレイの顔目掛けてもう一つのクナイを飛ばすが、グレイは掴んだクナイを軽く振ってそれを弾く。
シズクのクナイを投げ続ける。
首、額、そして腹――どれもグレイの急所を目掛けてくるものの、かん! かん! かん! とグレイは軽く弾く。
しかし、4番目のクナイが来るときにグレイは掴んだクナイを投げて自分に来る前に弾き、ボーン! と小さな爆発が起きる。
クナイに付けられてた火薬が爆発したのだった。
さすがに飛び道具ではもはや勝ち目を感じられなかったシズクは考えを変えて両腕の籠手から爪の様な武器を表して向かってきた。
グレイはナイフを……出さず握っていた一本のナイフを右手で握ったまま左手で準備する。
向かってくるシズクの狙いは――何もない。
グレイの寸前で飛び上がり、上から下へ籠手のクローを振り下ろす。
グレイが右に軽く避けて、シズクは体を左に回して右手のクローを振る。
それはグレイの右腕の肘で止められる。
狙ってのないチャンスによってシズクの右手のクローがグレイを襲う。
かん!
と、金属音に似た違う音が響く。グレイの左腕からだった。
シズクの右籠手のクローも届いていない。
グレイの腕にある丸くて透明な青い色のルーン文字が書かれたそれに止められたからだ。
一瞬、シズクがグレイの顔を見る。
「なんだ、これで驚くのか」
何故そんな言葉を言ったのかはともかく、グレイは足の前蹴りでシズクの腹を蹴る。
一瞬でかなり飛ばされたシズクは体制を立てそうとするけど、今度は自分に――あっという間に傍にまで来ていたグレイにクローを振る。
ブゥ――ン!
さっきの金属音に似た音ではなく聞いたこともない音と共に、シズクは自分の左籠手のクローが折れたと知る間もなくシズクは左手を引っ張られてその腹に膝蹴りを食らう。
「くはっ……!!」
喉奥から唾液が吐き出されるほどの衝撃に続き、首を腕に掛けて力だけでシズクの体は持ち上げられて――トン! とラリアットの如く地面に振り落とされた。
戦闘終了――シズクは無反応となり、指も動かさなくなる。
しかし、状況からみるとテロ犯と内通者を捕らえた形ではあるが、女性であろうと完璧に容赦のない仕打ちであった。
グレイはため息を一息ついて――「言っただろう。ガキの前で騒いだら今度は承知しないってな」と、気絶したシズクに言う。
それを――セレナも、周りにいた住人たちもただ見ていた。
レイは……セレナに守られるように抱かれて見れてない。
→
レストランでの一件の後――、グレイが捕縛した全身布男とシズクはこの冒険者の町内にある牢へぶち込まれて取り調べを――準備している。
二人とも強い衝撃によって気絶しているため、今の状態で話しを聞くのは無理だ。
そしてその二人を拘束した本人のグレイは――。
両手首に木の拘束具を付けられて一緒の牢屋にぶち込まれた。
「どうしてですか?! 」
「セレナ、ちょっと落ち着こう!」
「彼は命を狙われた私を助けてくれたんです! 直ぐに開放してください!」
「もちろんだよ! 私のギルド長の名に掛けて絶対に開放する! ただ説明だけでも聞いてくれ!」
……。
「分かりました。ですが納得ができないのでしたら私自ら動きますからね」
「わかった。それで構わないよ」
冒険者ギルドのある町内のギルド長室。
言い争い……というよりはセレナからの一方的な言葉責めにギルド長のガイルが冷や汗を流している。
元々、この女の子が本気で動けば国家的に大混乱を起こしかねない。
ガイルが流している冷や汗は本気の冷や汗だった。
セレナの隣には不満どころか、明らかに起こっている女の子がいた。
女の子にしては綺麗すぎる見た目だが、怒っている表情が……いや、怒っている顔すらも可愛らしさがある。
ガイルはその子の事をセレナから聞いている。
グレイを『お父さん』と認識してそう呼ぶ親不明の子だと。
……しかし、今は激怒している目の前の姪と話しが先である。
「まず、グレイ君が拘束された件については当時検挙した騎士が騒乱を起こした人物の一人として検挙したみたいだ。すでに私が直接話しを付けているから形だけ逮捕されて直ぐ解かれる予定になっているよ」
「……でしたら、他の理由で私をここに呼んだわけなんですね」
「もちろん、シズク君についてだよ」
「……」
確かに訊かないといけない事である。
「シズクの事が分かったのですか?」
「いや。まだ目を覚めてないから話しは聞けてないよ」
ガイルはセレナからの問いに否で答えるけど「でも、そのグレイからの情報提供があってね」と羊皮紙……? を一枚出して続ける。
ガイルが出したそれには一つの文字が浮かんでいた。
「この文字は『そう』と読むらしいが、君は知っていたのかい?」
そう。いや、ただ読み方はそれであっているけど意味は別にある。
「知っています。シズクの故郷の文字に使われているみたいですから。 確かそれは『
セレナは一瞬不安になっている。
もしその文字がルーン文字と同じ様に文字魔法に使われていたのなら……。
しかし、そのセレナの不安を「それは違う」とガイルは否定した。
「布の男の方だけど、その目に掛けられてあった魔術の文字だしい。グレイ君が教えてくれた情報だよ」
「直接聞いたのですか?」
「そう、一早く話しをつけるためにね。それとその布の男なんだけどね。彼の正体も分かったよ。というかこのギルドの一員だったよ」
セレナは言葉が詰まった。そのままガイルの話しを聞き続ける。
男は『デリアー=プライム』このギルドでかなり名前が知られるBランク冒険者パーティで見習いをしていた男という。
一昨日に子供が行方不明になったという調査、救出希望の依頼を受けて出たっきりにまだ帰ってきてなく、逆にパーティ全員が行方不明になったとされた。
話しを聞いたセレナは「それはつまり……」と深く考えて。
「元々内通者だったんですか? それともさっき操の文字を使われた文字魔術で操られていたというのですか?」
ガイルは首を横に振って「まだわからない」と言う。
「まだその本人が目覚めてないからね」
「では……シズクが操の文字魔法でそのデリアーという男を操ってた可能性が?」
「その意見を君に聞きたくてね」
ガイルは机の押し入れから何かを取り出す。
シズクがセレナの頼みのために書いた冒険者ギルド登録時の書類だった。
その書類には登録の際に文字の読み書きができない冒険者の為にギルドの職員に頼んで代理で書くのが定石となっているけど、登録する冒険者の自分のできる武術や魔術、そして本人が望むのなら以前に所属していた機関などを書く。
その上でランクDまではただの見習い冒険者として扱われるけど、Cからのランクアップの際に、この書類や経歴、そして本人の力量と希望によって『職業』と呼ばれるものを与えられる。
職業は剣、武術、弓、戦闘魔術などの戦闘に特化の『傭兵』。
探知や捜索、罠解除、ダンジョン潜りに特化した『斥候』。
町の住民の要請や探し物、騎士団や政府機関への協力が主な『探偵』。
こうして三つの職業の内に一つを与えられてそれに見合った高いランクの依頼が与えられる。
そして当然だが、冒険者業に重要な書類なだけその内容は機密であり偽造は犯罪である。
ばれたら即冒険者資格を失う。
「で、その事と一緒にこの書類の事や色々とでシズク以外にもグレイ君の事だが……」
→
↘
午後の夕方頃。
グレイの刑はまだ全部確定していない。
だがまず確定しているだけでも『町内での暴力行為と周辺への破壊工作』、『書類偽造による冒険者の追放』、『騎士数名への暴行』の三つだ。
つまり、後者の二つはともなく前者の町内での爆破からして全部引き起こした側として刑を与えるつもりだった様だ。
それだけはガイルがギルド長の名を使って無実を証明してくれた……と言っていたが、おそらくそれだけではないだろう。
って事はギルド長の隠している事か、もしくは……レナか。
……いや、どうでもいいか。
前者のそれはともかく後者の二つは紛れもなくグレイの刑だ。
二つ目の刑『ギルド書類の偽造』……は確かにグレイはやった。
ギルド書類の偽造――つまり、魔術の事、生まれた地の偽造と履歴の偽造の事だろう。
でも、それは仕方ない。
グレイには故郷を記せない事情がある。
故に故郷の事は偽造した訳だが履歴も同じく町内での農夫出身……と嘘を書いた。
だが、今回で一番の確実な事は魔術の事だ。
つまりルーン魔術。
使用武器などはともかく魔術を使えるならば必ず書かなければならない。
魔術は人を簡単に殺める力でもある故に、書かない事は知らなかったで済ませないからだ。
これだけでも、グレイの冒険者資格は剥奪の上に追放となり、再登録はできても5年間までは再登録はできない。
……。
「ま、再登録なんてしようとなんて思わないけど」
最後となるが、『騎士への暴力行為』とは――グレイの両手に拘束具を付けて連行しようとした騎士に向かってレイが泣いて暴れたからだ。
レイは「お父さんを連れて行かないで」と泣き喚いで騎士にしがみ付いた。
グレイの「俺をお父さんと呼ぶな」の台詞の直後にレナが止めようとするものの、騎士はその前にレイを力で離し、踏みつけようとした。
即座にグレイが拘束具を力で砕いてその騎士の首を片手で掴み持ち上げては一瞬で殺しそうな勢いで――。
「ガキに何しやがる……」
グレイのこの言葉の後、騎士は怯えるみたいに体を振いまくって――気絶する。
レイはそのままレナに任せてグレイは拘束を付け直せを他の騎士に両手を差し出す。
その時、レイには「戻って来る。それまで大人しくしてろ」といい残してグレイは騎士に自ら連行された。
そして今、冒険者の町内の牢屋内にいる。
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