雨、紅葉、赤い傘

 参道を抜けると、何軒もの飲食店やお土産屋などが、立ち並んでいた。その一軒から甘いたるいタレの香ばしい匂いに誘われて、茶屋に入いることにした。

 

窓際のカウンター席で、炭火で焼かれたみたらし団子を頬張りながら、窓外を眺める。


「こんばんは。また、会ったね」

先ほどのあった男性が、海月の座っていたカウンター席にやって来た。

「こんばんは」

「あなたの姿が見えたので、声を掛けたくなってしまって、ごめんね。ただ、先ほどより表情が明るくなったから気になってしまって」

「ありがとうございます。少し心が軽くなりました」

「それは良かった。この後も、紅葉を楽しんでね」そう言って、レジの近くに立っていた和服の女性と、茶屋から去って行った。


 鞄に手を伸ばし、椅子から立ち上がると、耳に雨の音が聞こえてきた。雨粒がガラスを濡らし始めている。

 もう一度、座り直した。茶屋の店の前の道を行き交う人々は、様々な対応している。雨脚を気にしながら、早歩きになっている人。どこかのお店に入っていったり、雨を気にする様子もなく平然と歩いている人、ジャンバーなどのフードを頭に被って歩く人、傘を差し始めている人たちが通り過ぎていく。

 そんな様子を、しばらく茫然と眺めていた。少し雨脚が弱まってきたので、茶屋を出ることにした。


 もう少し、紅葉を撮ろうと、参道へと歩き出す。雨に濡れて、さらに赤く染まった紅葉が、出迎えてくれた。雨音が鳴り響く世界で、折り畳み傘を首に引っかける。雨に濡れて赤色が際立った紅葉に、カメラを向ける。また違う表情が写し出されていく。その姿が、美しく、淡く、切ない気持ちが入り混じっていく。


 背後から、軽快にヒールの音が鳴っていた。その音を止めることなく、女性は、海月の横を通り過ぎていった。思わず、シャッターを切る。


 雨で、濡れる紅葉が、赤い傘を照らすように、綺麗なコントラストが生まれていた。その世界が、切なく、儚く、強く、広がっていく。


新しい恋をしたいと、海月は願った。その時、空から晴れ間が見えてきて、心を明るく照らしてくれた。

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紅葉に彩られて 一色 サラ @Saku89make

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