紅葉に彩られて

一色 サラ

赤く、淡い、紅葉

 風が揺れるたびに、真っ赤に燃える葉が、乾いた音を立てて揺れていく。美しく世界を彩っていく紅葉が、ひっそりと、佇んで、海月みづきの空っぽの心が、ユラユラと揺れている。

 紅葉にカメラを向けても、全く心が籠らない。何も集中できず。心ここにあらずな状態だった。こんな気持ちで撮っても、ここに来た意味がない。気持ちの切り替えができない。


「気持ちのいい写真は撮れていますか?」

声が聞こえてきた方を見ると、50代くらいの男性が海月に話しかけたいた。

「気持ちのいい写真ですか…だぶん、撮れてません」

「そうですか。それなら、心を軽くして、撮るといいよ。きっと、上手くいく。健闘祈っているよ。」


心を軽くして、撮るって、何なんだろう。疑問だけを置いて、男性は、去って行った。


『もう終わりにしよう』

昂星こうせいの冷たく突き放された声が、頭の中に響き渡った。何かが欠けたように、思考が崩れ落ちていく。


 何がダメだったのだろう。なんで、別れることが決まってしまったのだろう。引き留めたいが、昂星の冷たい目が、それを許してはくれなかった。


 想い出に浸っている足取りが、参道へと足を進ませる。イロハモミジの並木道が、赤い絨毯のように、落ちた葉が広がっている。落ち葉は、地面に落ちてしまっても、赤い紅葉は儚く美しいものだった。


 昂星との戻ってこない日常。手を伸ばしても、取り戻すことの出来ない世界。いつまでも浸っているわけにはいかないのだ。


 目を開けて、現実の世界に視野を向けるしかない。過去に引きずり込まれている気持ちを清算しないといけない。

 

 風が木々がカサカサと音をたてて、揺れている。カメラを構える。神経を集中させて、ピントを合わせる。赤く染まってる紅葉が、昂星の姿を写し出している。


 目を閉じて、ゆっくりと、もう一度、目を開いていく。カメラを構えて、目の前に広がる紅葉にピントを合わせて、シャッターを切る。


海月の失恋の淡い気持ちを際立たせていく。


想い出に、別れを告げるように、シャッター音の鐘を鳴らしていく。時を忘れるくらいに、何回もシャッター音を鳴らす。何も感じなるくらいまで、撮り続けていく。赤く染まった紅葉が、表情を変えていく。


心が軽くなった気がした。


 全てを清算していくように、昂星の柔らかい笑顔が、透き通った声が、優しく温かい人柄も、凛とした紅葉の世界へと変貌していく。

 

 戻ることのない世界に、終わりを告げた。海月の切ない気持ちが、儚く散って、赤く、淡く、染まる紅葉に、心が軽く澄み渡らせる。





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