第28話 迎賓

 夕方の五時には、すべての準備ができた。これらはすべて、わたしとエルウィン以外の尽力によってだ。


 お城の玄関から入ってすぐの広間で、来賓を迎える。


 城主エルウィン、執事グリフレット、娘のモリー、メイド長ミランダ、そしてわたしの五人でならんだ。


 五人の出迎え。その中央は、なにかの冗談だと思いたいが主催者のモリーだ。


 わたしの服装は城のみんなに猛反対され、渋々ドレスを着ることになった。お城にあったドレスの中で、一番地味なドレスにした。フリルもなにもついてない、ストレートなロングドレス。それでも色は銀だ。


「派手すぎない?」


 となりのメイド長に小声で聞いてみる。


「ひかえすぎです」


 そう言うメイド長のドレスも、花柄をあしらっているが、色はブラウンでひかえめだ。


 不安に思ったが、人々の到着でわかった。女性陣のドレスは、みんな豪華だった。男性陣はタキシードか燕尾服。わたしは「お城のパーティー」というものを、甘く見ていたらしい。


 来賓の中に知った顔を見つけた。若いメイドのビバリーだ。ビバリーは、オレンジのあざやかなロングドレスを着ていた。腰についたアゲハ蝶のアップリケが、とてもかわいらしい。


 ビバリーが「え、なんで?」という顔をして、わたしとメイド長のドレスを指さす。なにか言いたいようだ。メイド長が首をふって、ビバリーを黙らせた。これはひょっとして、わたしの地味なドレスに合わせ、メイド長も地味にしてくれたのかも。あとで謝っておこう。


 来賓の中には、大きな旅行鞄を持った人もいた。晴れやかな笑顔をしているが、疲れも見える。遠くから急いで駆けつければ当然だ。


 年老いた男性が、階段でスーツケースをあげているのを見て手伝った。


「遠くから、ありがとうございます」


 声をかけると、老人はにっこり笑った。


「病院を抜けだすのに、手間どってな。あんたも招待状に、びっくりしたろう」


 わたしは笑って「ええ」と答えた。「その原因の母です」とは言えない。とても言いだせない。


 感心することも多かった。すべての人が、まず主催者モリーにあいさつをする。まっさきに会いたいのは城主だろうに。しかし、ピンクのお姫様ドレスは、ここでも効果抜群。ご年配がたの顔が、思わずほころぶ。そして、エルウィンと念願のご対面だ。


 はじめてエルウィンに会う、という人が圧倒的に多いのだろう。ほとんどの人が歓喜にあふれている。わたしは言わば、ハンバーガー横のポテトかピクルスだが、感動の出会いというのは、見ているこっちまで感動した。


 お城の奥から小走りにかけてきた男性が、なにやら執事に耳打ちした。執事が、今度はエルウィンに耳打ちする。


「ルクセンブルグ大公の自家用ジェットが、数時間前に飛び立っていたようです。それも非公式で。思い当たる節はございますか?」


 エルウィンが眉をひそめた。


「まいったな。いまの曽祖母に助けられたことがある。その時に身分は明かした」

「現大公とは?」

「面識はない。だが間違いないだろう。どうやってか、ひそかに、この城はチェックされていたようだな」

「では、空港へむかえを」

「ああ、裏口から入れて、パーティーが始まってから、会場に誘導してくれ。皆に気づかれないように参加させる」


 かけだそうとした執事を、いま一度エルウィンが止めた。


「会場のチョコレートをさげてくれ。あのばあさまと性格が同じなら、それについてはプライドが高い。そして、おそらくたんまり、自国のチョコレートを土産で持ってくる」


 執事は無言で二度うなずき、その場を離れた。


 これは聞かなきゃ良かった! 今日は、庭師長の息子のそばにいよう。気を失うなら、ひとりより、ふたりがいい。

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