第11話 お城の屋根裏部屋

 目をあけた。


 天井に、なにか布が貼られている。かなり凝った刺繍のある布だ。ちがう、これは天井ではなくて天蓋てんがいだ!


 がばっと起きた。なんとも広い部屋。わたしが寝ている天蓋つきの大きなベッドが、ぽつんと一つ。それにシャンデリアが大きい。なにこれ、まるで、お城じゃない?


 いや、お城に来たんだ! やっと思いだした。


 ふと外から、歓声のようなものが聞こえた。そろり、ベッドから降りて窓ぎわに近づいてみる。


 遠くの池で、大勢の人がスケートをしていた。娘のモリーもわかった。やっと見えるていどだが、ひとりだけ小さいので間違えようがない。


 どのぐらい寝てたのか? 時計を探したけど見あたらなかった。大きな両びらきの扉をあけ、廊下にでてみる。


 廊下にでても人の気配はない。静まり返った城の中は、ちょっと不気味。大理石の冷たい廊下がながく続いていた。


 とりあえず廊下をすすみ、端まで来たので引きかえした。さきほど寝ていた部屋を通りすぎ、今度は反対側の端につく。


 ・・・・・・ちょっと待って。階段はどこ?


 突きあたりの窓から下を見てみる。おそらく三階か四階だ。かなり高い。


 ふりかえって廊下を眺めた。かなりながい直線。両側に同じかたちの扉がならぶ。一個だけ、ひらきっぱなしの扉が寝ていた部屋だ。ふと、なにかの推理小説で読んだ気がする。古い館では、階段にも扉がついてあるってこと。


 そこでまず、一番近くの扉をあけた。部屋の中は空っぽ。いまは使われていない客室のようだ。では、反対の扉をあける。そこも空き部屋。では、となり、やっぱり空き部屋。その次、その次、やっぱり同じ。


 あけっぱなしの扉が、廊下の半分ほどになったところで、あけるのをやめた。


 さて困ったなと腕組みしていると、遠くの扉と扉のあいだに、小さな戸があるのに気づいた。ほかは両びらき二枚の扉だが、それだけは一枚の小さな戸だった。


 これだ! かけ寄って、あけてみる。やった階段だった! でも一つ問題が。この階段は、のぼりだった。


 ひらめいたのが、ここは三階か四階のはず。これは屋上にでる階段では? 屋上から呼びかければ、スケートをしている人に声は届くかもしれない。誰かに案内してもらって、この「お城の迷宮」から脱出しよう。薄暗く、せまい階段だが、とりあえず行ってみることにした。


 階段をあがると予想はちがい、屋根裏部屋だった。


 あちこちに食器や燭台など、昔の調度品が置かれている。いまは倉庫がわりのようだ。しかし屋根裏でも小さな窓はあった。そこから人を呼んでみよう。


 窓のほうへ近づいていく。それにしても見るからに高そうなアンティークだらけ。


 せまい棚と棚のあいだをすり抜ける。その棚には大皿が置かれていた。バラが描かれた大皿は、おそらく手描きの一点物。この一枚で、わたしのお給料一ヶ月分になりそう。


 ほかにも真鍮の天球儀や、インク壺などの文筆道具もあった。鹿のかたちをした銀板のような物もある。昔の部屋飾りだろうか?


 気をつけて進んでいると、壁にいくつもの絵があった。すべての絵には布が掛けられている。ちょっと気になったので、ひときわ大きな絵の布をはずしてみた。


 見て思わず「うわー!」と声がでた。


 咲きほこる花の庭で、人々が優雅に、お茶を楽しんでいる。遠くに見たことがあるレンガ造りの橋があった。これは、お茶会ね。ところどころが色あせてはいるけど、とてもいい絵。


 こうなると他も気になる。サイズは小ぶりだが、六枚ほどが等間隔で掛けられていた。


 左端の布をめくってみる。かなり古い絵だった。かっぷくの良い老人の人物画。着ている服が、かなりご立派。おそらく、この城の当主だろうと思った。


 次も、その次も見てみた。おもしろいのが、どこかしらエルウィンに似ている。彼の祖先なのであたりまえか。だが最後の六枚目をめくり、わたしは混乱した。


「エルウィン?」


 どうみても、エルウィンだ。絵はとても古い。一〇年、二〇年前の絵ではない、一〇〇年、二〇〇年?


 ざわっと全身から血の気が引いた、その時、がたん! と物音がして、うしろから羽交い締めにされた!


「なに盗もうとしてんだ、おばさん!」


 ボブと呼ばれていた運転手。ふりほどこうとしたが、若者の力は強かった。


 力を込めて思いっきり、あたまをうしろに突きだした。ごつっと後頭部が顔面にあたった感触。うっと相手がひるんだ瞬間、腕をふりほどいて逃げた。


 寝ていた部屋までかけもどり、鍵を閉める。


 がちゃ! と部屋にいくつかある扉から、メイド長のミランダが入ってきた。おぼんを持っている。お茶を運んで来たようだ。部屋の中に階段があったのか!


 メイド長の持つおぼんの下をくぐり抜け「ひゃ!」と、おどろく声をあとに、階段をかけおりた。


 いままでなんとなく感じた違和感がわかった。これまでの、おかしな点にも納得した。信じられないけどエルウィンは、この世の者ではない!


 ああ、モリー! モリーを助けないと!

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