第10話 お城としか言えない

 リムジンでしばらく走ると、長い直線に入った。


 車内は、運転席と後部座をへだてる隔壁がある。よって前方が見えない。横の窓にへばりつくようにして前方を見た。林の中をひたすら真っすぐに道が伸びているようだ。


 林道の終点は鉄柵のゲートだった。自動でゲートがあく。これも、映画などで見るような風景だ。だいたいは、マフィアだけど。


 車はくねくねした道を通り、深い山の中に入っていった。お金持ちが、こんなへんぴな場所に住んでいるのは意外だ。


 ここまでに会った使用人は、執事にメイドに運転手と、すでに三人。まだ家にもいるとして、五、六人は超える。それだけの人数をかかえるって、かなりの資産家だ。


 先週TVで見たプロゴルファーの邸宅を思いだした。たしか四つもベッドルームがあり、プールも広かった。あれより大きいのかもしれない。


「もう家につく」


 エルウィンがそう言うと、車は大きく曲がった。高い石垣があらわれる。石垣は両側にずっとつづいていた。道に沿って車はすすみ、大きなアーチの下をくぐる。


「庭だわ」


 思わず、わたしはつぶやいた。


 冬なので花は咲いていない。でも、きれいに手入れがされている。


 緑の四角い生け垣は、気持ちいいほど整っていた。通路の石畳には、かれた雑草などもない。


 小さな噴水からは、水がちょろちょろと出ていた。遠くに小川があり、そこにかかるレンガ造りの橋が、なんともかわいらしい。どこの国立公園だろう?


「わあ、お城だ!」


 モリーが見ている反対側の窓を見て、息をのんだ。


 お城だ。お城としか言えない。


 正面の大きな四階建てに、ならんだ細長い窓。その上には三角屋根。さらにおくには、もっと高い建物も見える。


 エンピツを逆さにしたような、先のとがった塔がいくつかあり、その中でも、ひときわ高い二つの塔があった。その一つには大きな時計がついている。


 お城の壁は白く、まさに「白亜の城」だった。


 まばたきするのも忘れ、口もひらきっぱなしの自分に気がついた。でも目が離せない。


「さっき、家って言ったわよね」

「ああ、すこし大きいが、僕の家だ」


 彼になにか言ってやりたいけど、あまりのことに言葉がでない。


「ここから見えないが、むこうに池がある。あとでスケートをしよう」


 近くの池! あの時、エルウィンは言った。正しいけど、それは敷地内。自宅の池だ!


 車は、ゆっくりと玄関前に止まった。


 よろけるように車を降りて、お城を見あげる。長い階段があり、わたしの家の一〇倍ありそうな大きな大きな扉が待っていた。こ、これは場ちがいすぎる!


 モリーは、エルウィンのあとをついて、さっさと階段をあがっていく。わたしは足が止まっていた。


 あたまの中が真っ白。階段をのぼる一歩が、ふみだせなかった。


 階段は高く、お城はもっと高い。


 そして、お城を見あげたまま、目の前も真っ白になった。


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