浪人生の男子が、ある日偶然出会った正体不明の冷たい少女に、じわじわ絡め取られていくとある夏のお話。
ホラーです。あるいは怪談のような艶話。もちろんジャンル設定の『現代ファンタジー』というのは嘘ではないのですけれど、形式としてはホラーに近いものがあるように感じます。たっぷり詰まったフェティッシュと、そこから滲み出るエロティシズムの、その使われ方がとても心地の良いお話でした。
ヒロイン(ある意味では主人公)たる『蜥蜴ちゃん』の存在が最高です。このなんとも言いようのない妖しい存在感! どこかあからさまにおかしなところがあるわけでもないのに、それでも「普通じゃない」「何かある」とわかってしまうこの感じ。彼女のこの独特の造形、魅力的に感じてしまうこと自体に恐ろしさがあるのがとても好きです。
以下はネタバレを含むというか、思いっきりお話の結末に触れていますのでご注意ください。
この作品、テーマは『性癖』とのことで、いろいろ好みをくすぐられる要素がてんこ盛りなのですけれど、でも個人的に一番刺さったのが結末でした。
一応はハッピーエンドのような、ギリギリ助かったという形での締めくくり。でも反面、かなり凶悪な爆弾がさらりと落とされているというか、『本来絶対に失われるはずのないものが恒常的に失われてしまった』ことが明言されている。ここがもう本当にツボでした。これはもう本当の本当に個人的な解釈なのですけれど、ある種「去勢」に通じるものがあるように思えて、そこが問答無用ですばらしいというかいやなに性癖セルフ開示してるんでしょう私。すみません……取り返しのつかない堕落が好きなんです……(でも絶対わかってくれる人はいるはずだと信じます)。
あとこれは本当におまけなのですけれど、視点保持者の男性が好きです。滲み出る、というかもうダダ漏れ状態の「ダメな子」感。お前そんなだからずるずる引きずり込まれちゃうんだぞっていうか、なるほど蜥蜴ちゃんが気に入るのもわかる気がします。簡単。どこかただれた雰囲気の似合う彼と彼女の、じっとりとした冷たさの漂うエロティックホラーでした。