プロット
■お題
「子供」「銀」「海」
■タイトル
誓いは海に還らない
■舞台
無人の海、和歌山県太地町(※注1)を想定
■キャラクター
・あたし(名取・波留美 ※注2)
女性、年齢は三十路後半を想定。フリーランスのデザイナーで、よくイルカをモチーフにする。
結婚して中学生になる子供も一人いるが、つい先日離婚。子供も父親の方を選んだ。離婚理由は夫の在宅業務が増えた結果、仕事中に奇声を上げるわ料理はまともにできないわ、結構壊滅的な妻とこれからあと何十年も一緒に過ごすのか……と思って絶望したため。わかってて結婚してくれたんじゃないのー!? なお子供も冷静に考えて父親の方がマシだと選んだ模様。
傷心がてら地元に帰り、海を眺めながら結婚指輪である純銀の指輪を投げ捨てようとして躊躇う。それからぼーっとしていたところで少年に出会い、促されるまま経緯をぐだぐだと話すことに。
・少年
男性、外見は小学生高学年程度。正体は数日前、海辺に打ち上げられていたイルカの幽霊的な存在。過去に地元民しか使わない海で溺れかけた少女を助けたことがある。その相手が「あたし」。
■要素
・子供:離婚した息子、海辺で出会った少年、幼少の頃の自分
・銀:銀の指輪、少年の髪色(光に透けると銀色に見える灰色)、銀のイルカ、イルカ肉(メチル水銀が含まれている)
・海:話の場所
■本文プロット
※「あたし」一人称
「ばっかやろおおおおおおおおおぉ!!」
海に向かって大きく振りかぶり、握りしめた銀の結婚指輪をぶん投げようとするも、あっやっぱりなんかもったいないって気持ちになって寸でのところでやめる「あたし」。
なにやってんだろ……と砂浜に座り込む。時期は8月(イルカ漁の手前くらい)。海を眺めていると、不意に横合いから声がかかる。少年の姿。妙に美形で、髪色が灰色とも白ともつかないような。真っ白い服。日本人じゃない? ぼーっとその姿を見ていると「座っていい?」と聞かれる。敬語じゃないんだとか思いながらも、それが自然に思える。どうぞ、とお姉さんぶる「あたし」。遠慮なく座った少年はにこにこしている。
どうしてこんなところにいるの、と言われ(ここの海は立地的に観光客が寄りつかず、先日イルカの死体が上がったとかで今は地元の人間も寄りつかない)、割と重いから見ず知らずの相手に話すようなことじゃないよなーなんて考えつつも、いやむしろ見ず知らずの相手だから話せるか、とぽつぽつ語り始める。結婚して中学生になる子供もいること、少し前から夫の在宅業務が増えて、元々家で仕事する自分の奇行(アイデア出し中に奇声を上げる、テンション上がると叫び始める)を嫌がられたこと、ついでに料理できないわ掃除も雑だわ、そういうところが必要以上に目について「このままあと何十年も一緒に過ごすの無理だわ」的な宣言をされたこと。色々話し合ったけど、自分自身ふっと糸が切れてしまったこと。
そうして一応円満って体裁で離婚する流れになった結果、息子が夫の方についていってしまったこと。地元がこっちで両親にも「一度帰ってこい」と言われ、十年ぶりくらいに戻ってきたこと(語りには都度少年が合いの手を入れる)。
個人事情を語り過ぎて気恥ずかしくなり、少年のことを聞こうとするもはぐらかされる。
どこから来たのか、ここが地元?⇒ちょっと違う、地元は少し遠いかな……。
なんであたしに声かけたの?⇒だってお姉さんすごい騒がしかったし、なんか話聞いてほしそうな感じだったし。
にこにこした表情を崩さない少年。全然嫌な顔しない。めっちゃ話しやすいんだけど……!
それで結局ここには何をしに来たのか。まあ叫んで多少なりともすっきりしたかったし……なんて言いながら手のひらを開く。薬指から外した銀の結婚指輪。結婚する少し前、夫が決して高くない給料を使って渡してくれたもの。いやでも見てるとイライラするわ……。でも海に投げ捨てちゃうと、魚とかイルカとか飲み込んで大変だよ。そう臆面もなく言われると「まあ確かに」と納得してしまう。ここでそんな他人ならぬ他魚の事情とか関係ないし、なんて思えない辺りが微妙に小市民だよなーあたし。
そこで少年が「イルカ」と言っていたことに気づく。地元民じゃないのに知ってるんだ。例年この町ではイルカ漁をしている。沖合では普通に泳いでるらしいし、なんならこの海でも遠目に見かけたことはあった。スーパーにも普通に並んでるし、家でめっちゃ食べてたし。そういえば昔、小学生くらいの頃にここで泳いで、ちょっと遠泳してはしゃいでたら溺れかけて、イルカに助けられたことがあったっけ。まだ生きてるのかなー(ハンドウイルカの寿命は30~40年ほど)。捕まって食べられててもおかしくないけど、あたしを助けてくれるくらい賢いならちゃんと逃げてるのかもね。少年はどう思う?
どうだろう。イルカだってちょっとしたことで死んじゃったりするし。でも、お姉さんが今も元気にしてるってわかったら、きっとそのイルカも喜ぶんじゃないかな。そっか。どっかで見てたりしないかな。沖に手でも振ってみるか、と指輪を握っていない左手でひらひらすると、少年は「そっちじゃないよ」という。どういうこと?
こっち向いて、と言われ、よくわからないまま少年の方に手を振る。うん、よくできました。そういって笑う少年。急に強い海風が吹き、軽く巻き上がる砂に思わず手で目を隠す。風が治まるともう少年はいない。……いやいや、まさかね。
指輪をポケットに仕舞い、実家に帰ることにする。夕飯は久々にイルカのすき焼きって言ってたっけ。先日この海で上がったイルカの死体は、亡くなったばかりで腐っていなかったらしい。漁師たちは敬意を込めて食用にするため解体し、地元の漁師の家庭に出回った(さすがに死体を商品にするわけにはいかないので)。
離婚を言い渡された時は人生終わったー! くらい思ったもんだけど、別に子供にもう会えないわけじゃないんだし。人生これからだよね! ……独り身だけど! という感じでカラッとした雰囲気で〆。
■注意点
・語り口は軽く、テーマがアレなので重すぎないように
・容量制限キツめだからあまりだらだら書かず、勢いでがーっと流す(二人のやりとりもリズム良く)
・身体の動きが特に後半はないので、言葉のリアクションをわかりやすく
・伏線はきっちり、でもさらっと書く
■裏設定(語らないけど頭には置いておく)
・少年(死んだイルカ)はイルカの中でも賢い突然変異種、代わりに周囲のイルカにいじめられ孤立していた
・夫は「あたし」のことを「将来生理的に無理になりそう」と判断したが、夫婦関係の話であって人間的には別に嫌っていない
・息子は「あたし」を割と社会不適合者(ダメ人間)だと正確に理解している
>一緒に生活したら負担がこっちに来まくると冷静に分析した結果父親についたが、母のこともそれはそれで心配
※注1:和歌山県太地町では勇魚捕り(クジラ・イルカ漁)が行われています
※注2:本文では「あたし」の名前は出しませんでした(要素的に不要だったので)
誓いは海に還らない しんかい(神海心一) @e_mist
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