若気の至りをもう一度!〜禁断の夜食〜

砂上楼閣

第1話〜チョコモナ◯ジャンボの揚げ物

草木も眠る丑三つ時。


良い子はもう寝る時間だが、まだ作業は終わらない。


今夜は徹夜コースだろうか。


この歳になると徹夜は響くが仕方がない。


まだ会社じゃないだけましか。


いや、会社に通ってた時はここまでギリギリにはならなかった。


テレワークが基本になってからはどうも作業効率が下がっている。


通勤時間がない分時間は出来たし、ストレスもないし最高だ!と思っていられたのも数日まで。


むしろ家で作業してるせいか、集中が持たない。


会社みたく切り替えて、時間内は集中!終わったら自由だ!


みたいなモチベーションにならない。


昔から夏休みの宿題とか期限ギリギリまでやらないで遊んでいるタイプだったからな…




無理に集中しようとすると余計に頭が疲れる。


こういう時は糖分が欲しくなるな。


エナドリは長年の相棒だが、会社じゃないのですぐには買えない。


今の時間だとコンビニだが、外に出るのも億劫だ。


それにいいアイデアを出すにはやはりエナドリや栄養ドリンクより糖分が不可欠、なのだが…


ただでさえ運動不足。


通勤のために歩く事もなくなってからはさらにそれが加速した。


明らかに膨らんだお腹をつまむ。


なんだ、マシュマロみたいで気持ちいいじゃないか…


おっと。


大好きだった甘味もここ数年は控え気味で、仕事終わりのご褒美にしていたくらいだ。


エナドリの甘さで誤魔化すしかないのか。


いや、けれどご褒美もなくなって、それを思い出してしまった以上、体が、脳が甘味を求めてる!


ただでさえ夜中に、それも甘味を食べるなんて…


もう、若さが足りない…!


けれど、それでも…!


若さ故の過ちをもう一度…!


「……よし」


覚悟は、決まった。


足音を忍ばせて部屋を出る。


こんな時間に甘味を食べている所を見つかるわけにはいかないからな。


抜き足差し足忍び足……


台所に立ち、冷凍庫を開ける。


そこには夕飯の残りや材料etc


ごちゃごちゃと色々あるが、お目当てのブツ、甘味は、ない。


グゥ…


小さくだが腹の虫が鳴いた。


くっ…!


夕飯はしっかり食べたというのに!


戸棚を漁ればお菓子くらい…


いや、下手につまめば妻や子供にバレる。


何か、何かないか…


再び冷蔵庫を無駄に開閉する。


お、そう言えば…


冷蔵庫の上の段、冷凍庫を開ける。


そこにあったのは…


冷凍食品、製氷器、etc…


そして……チョコモナカジャン◯


これだ…!




いくつか材料をちょろまかして部屋に戻る。


夏に買ったアイスが残っていたのはラッキーだった。


最近一気に寒くなったからな…


アイスなんて糖分の塊で、しかも食べ過ぎれば太る上に腹も壊す。


けれど夏場は抗い難い魅力を持つ故に大量のストックがあった。


こいつはその時の生き残りか。


冷凍食品と内壁に挟まれるように隠れてた。


こいつを見つけた時、同時に思い出した映像があったんだよ。


とある番組で紹介されていた揚げ物屋。


そこで一番人気の品、それこそが……チョコモナ◯ジャンボだった。


揚げ物屋でアイス⁉︎


そんな驚きがあったのと、そして揚げられたソレを食べてる人たちの美味そうな顔。


作り方も材料も簡単なものだったし、作ってみようかなんて思ったりもしていた。


……今の今まで忘れていたが。


素人が作るには多少手間はかかるが…


幸い台所に素材はあった!



・チョコモナ◯ジャンボ

・油

・卵

・小麦粉

・パン粉


細かい所は覚えていないが、作り方は簡単だったはず。


さっそく作って……ってそうだ、忘れちゃいけない…


エアコンの設定をいじる。


普段よりも少し高めにな。


テレビでこいつを見てから、一度はやってみたかった…!


寒い季節に暖かい部屋で食べるアイスは格別だ。


冷たいアイスを熱い油で揚げるなんてことしてるんだ。


それはもう最高の状態で迎えなければならん!




部屋の机に材料を並べる。


素材として見ると違和感があるチョコモナ◯ジャンボ…


これを……揚げる!


じゅわわわ……


想像するだけでよだれがでそうだ。


油を使う以上台所を使うわけにはいかない。


さすがに音で家族にバレてしまうからな。


作業部屋は集中するために多少は防音性が高いからここで調理する。


揚げるのはどうするんだって?


確か押し入れに…


よし、あったぞ!


一時期アウトドアにはまっていた時に買い揃えたカセットコンロとガス缶。


あと大小様々な大きさの鍋。


使い捨ての紙皿もある。


たまに、本当にたまに夜食でカップ麺を食べる時用の割り箸もある。


「……よし!」




まずは¨つなぎ¨だ。


卵を割って深皿タイプの紙皿に落とす。


もちろんカラなんて混ぜはしない。


夜食によくチキ◯ラーメンを食べるからな。


いや、そんな頻度では食べないけど。


割り箸で卵をムラなくかき混ぜ、そこに少量の小麦粉を混ぜる。


だいたい大さじ2杯分くらいか?


目分量で入れたから少し多かったかもしれん。


ストックしてあるミネラルウォーターをほんのちょっとずついれてとろみを調整する。


あんまり固すぎてもサラサラすぎてもパン粉がうまく付かなくなるからな…


よし、いい感じだ。


お、部屋もあったまってきたな。


ここからは時間の勝負だ!


アイスが溶ける前に終わらせないとせっかくの食感が台無しになる。


それにせっかくの手間も台無しだ。


急ぎつつ、満遍なく繋ぎをチョコモナ◯ジャンボに塗りたくる。


そしてそこにパン粉をまぶす。




ちなみに野外とかで調理する時は、近場に水道とかがなければ小分けのお手拭きとかあると便利だぞ。


ボックスとか容器に入ってるやつだと出す時にどうしても汚れた手で触んないといけないからな。


業務用スーパーとかに30枚とか50枚入りで売ってるぞ。


手を拭くのにも、ちょっとした汚れを拭くのにも便利だ。


ティッシュでもいいが、あれば乾いた汚れには…っと、話が逸れた。


今はチョコモナ◯ジャンボに集中だ。




カセットコンロにガス缶をはめてつまみを回す。


カチッと音がして火がついた。


薄暗い部屋の中をガスコンロの火が照らす。


ボーーー…


おお、これはこれで何となく情緒があるな。


アウトドアしてるみたいで興奮する。


鍋に油を入れて火にかける。


普通の鍋だと油が温まるまで少し時間がかかるが、こいつはアウトドア用品店でかった熱伝導の高いやつだ。


それにチョコモナ◯ジャンボが浸るくらいの量だからそんなにかからない。


キャンプでアヒージョを作りたくて買ったやつだからな。


そこまで大きくもない。




「………そろそろか?」


よし、油が煮えてきた。


試しに割り箸の先を入れてみると、少しして小さな泡がいくつも出てきた。


だいたい180℃くらいか。


ちょうどいいくらいだ。


油が跳ねないように慎重にパン粉をまぶしたチョコモナ◯ジャンボを入れる。


ーーージュワワワワァ…


おおお!


いいね!


揚げ物ってやっぱりテンションが上がるな。


っと、薄暗いから揚げ過ぎないよう注意しないとな。


だいたい30秒しないくらい、表面の色が少し変わるくらいが目安だ。




「おお、これがチョコモナ◯ジャンボの揚げ物か…」


表面を薄くサクサクした衣に覆われたチョコモナ◯ジャンボ。


見た目に大きな変化はないが、アイスの揚げ物というある種の矛盾をはらんだこの存在は不思議な魅力を放っている、気がする。


よし、感動はそこそこに、さっそくいただくとしようか。


時間が経つと本格的にアイスが溶けてしまう。


それでは…


「いただきます…」


ザクッバリッ!


……!


なんて食感してやがる!


外は熱々の衣がサクサクとした感触で迎え、それを越えたらトロリと半分溶けたアイス、そしてまだ溶けていないチョコがパリッと割れる。


音も気持ちいいが、何より半分溶けたアイスだ。


カップのアイスなんかは少しレンジでチンしてから食べると美味しいと聞くが、こいつはそれに食感まで加わって…


「美味ぇ……」


揚げ物屋で大人気な商品なわけだ。


こんなの知ってしまったら、また食べたくなるじゃないか…


っと、アイスが垂れそうになっているのに気付く。


一度揚げている以上、あまり味わっていられる時間は無さそうだ。


段々と柔らかくなっていく食感も楽しみながら、チョコモナ◯ジャンボ揚げを食べきる。


「ふぅ…」


アイスの濃厚な後味を余韻に楽しみながら、充実してきた気力が全身に、特に脳に染み渡るのを感じる。


よし、片付けは後だ。


さっさと仕事を片付けよう!




こうしてアイスの揚げ物を夜食に、見事困難を乗り越える事ができたわけだ。


そして…


「ねぇ、これはどういう事?」


「えっと…」


部屋にはガスコンロ、鍋、小麦粉を始めとした食材、ゴミetc


やりきった充足感のままに寝落ちした結果、見事に夜食の件が妻にバレた。


そして部屋を汚したままにした事に始まり、最近の運動不足、生活習慣病、家にいるなら家事を手伝えなどの怒涛のお説教。


しばらくは甘い物が禁止され、子供と一緒にお手伝いに励む事になりましたとさ。


みんな、後片付けはすぐやろう。


証拠隠滅は早い方がいい。


あと夜食はほどほどにな!

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