最終話 DTとJK、その後
「コロッケ、いかがですかー?」
ロバートは、露天でコロッケを揚げている。
場所は、ヒナマルと一緒に降りた地球の公園だ。
「どうロバちゃん、順調?」
仕入れに行っていたヒナマルが、軽四に乗って帰ってきた。
「ああ。すごい売り上げだよ。午前中はこれでいいだろう」
あれから、どれくらい経っただろう?
ヒナマルは無事に、学校を卒業した。
ロバートも、ヒナマルの両親を頼ってこの仕事を得る。
大学に行く気がなかったヒナマルは、すぐにロバートを手伝ってくれた。
コロッケを揚げられる程度の、小さな屋台だ。それでも、自分の城である。
上げるのは牛肉、かぼちゃ、カニクリーム。
どれも、ヒナマルの好きなものだ。
お寿司屋の娘がコロッケを揚げるとは、両親は予想できただろうか。
「うまそうじゃのう、一つくれんか」
一人の老女が、屋台の前に立つ。
「ありがとうござ……オババ!」
なんと、現れたのはミニムであった。それも人間体の。
「うーん、うまいのう。これが二人の愛の結晶というわけか」
ミニム老師が、カニクリームコロッケにかじりつく。「未知のものが食べたい」と、即決で頼んだのだ。
コロッケはあっという間に売り切れて、今は店を畳んでいる。
「愛の結晶は、こっちですよ。オババ」
ロバートは、ヒナマルの背にいる娘の頭をなでた。
「やー」と、娘が笑う。
「ワシがお前の子を見ることになるとは。両親や兄妹には悪いが」
「写真をどうぞー」
ヒナマルは、よく気が利く。
誰が来てもいいように、ちゃんと写真を撮っておいてあるのだ。
「よく来てくれたね。魔力? がなくて、大変なんじゃ」
「大丈夫じゃわい。ヒナマルに会うため、手を尽くしたからのう。その代わり、あまりとどまることはできんが」
「会いに来てくれて、ありがと。オババ」
「うむ。ワシもうれしいぞ。おお、そうじゃ、ミュリエルにも、子どもが生まれたゾイ」
ミュリエルが写った写真を、ヒナマルに見せる。
「うわあ。かわいい! 男の子かー。あたしの子と結婚させよっかなー?」
「それもええのう」
ヒナマルがミニムと話していると、娘がグズり出した。おそらく母乳を欲している。
子どもをヒナマルにまかせて、ミニムと話し合う。
「あれから、向こうの世界はどうなりました?」
「人類と魔族との和平が、成立したわい」
ミュリエルとパーシヴァルは、隠居生活を送っていた。
だが、世界はそれを許さなかったらしい。
魔族が弱体化した責任を取らされ、ミュリエルは結局、魔王として担ぎ上げられたとか。
「でのう、好き勝手やっとるわい」
彼女を魔王にしてしまったため、魔族は大きな顔ができなくなったそうな。
人類に敵対していた魔族などは、完全に勢力が縮小しているという。
「そっちはどうなんじゃ?」
「実は、セルベールが来ました」
「なんと!?」
ミニムが身構えると、ロバートは首を振った。
「勝手に自滅しました。ご安心を」
「ううむ。脅かすでないわい」
「すいません。でも、これでようやく、ボクも落ち着くことができます」
ロバートは、自身の身の上を話す。
ヒナマルの両親は、ロバートの話をあっさり信じてくれた。
パーシヴァルたちの知り合いだという言葉がよかったのだろう。
なにより、ヒナマルを無事に連れて帰ったのが好印象だったらしい。
欲望に負けて手を出していたら、どうなっていたか。
卒業と同時に入籍し、子どもも得た。
「そうじゃのう。では、もう時間でな。さらばじゃ」
授乳中のヒナマルに声をかけ、ミニムは帰っていく。
「さて、午後もがんばろう」
「頼むね。ダンナサマ」
「うん。ありがとうヒナマル」
「なにが?」
「ボクの奥さんになってくれて」
「なにをいまさら」
世界を救った大賢者と呼ばれた男は、今はチキュウでコロッケを揚げている。
決して、落ちぶれたわけじゃない。
今が一番幸せだから。
(完)
DTをこじらせたおっさん魔道士、地球からJKを召喚してしまう 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2
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