DTとJK、チキュウへ

 ロバートは、草むらで目を覚ました。


 草原だというのに、のどかすぎる。魔物どころか、生き物の息吹さえ感じない。


 いや、ハッハッハという息がやたら聞こえてきた。


「うわあ!」


 慌てて、飛び起きる。


 現れたのは、犬だ。

 かなり大きい。

 野生だろうかと思ったが、違う。

 リード付きの首輪をつけている。


「あっ、ごめんなさい。ほら行くよ!」


 大型犬を、小さい子が連れて行く。


 彼女が、飼い主だろう。


 それにしても、大きな犬があんな小さい子どもの言うことを聞くとは。

 召喚獣でもなければ、あそこまで懐かないのでは?


 ここが、チキュウという世界か。

 寝ていても、誰からも襲われないとは。どこまで平和な世界なのだろう?


 半身を起こしたロバートが、辺りを見渡す。


「ここが、チキュウか」


 着ているのは、旅人の衣装だ。ミスリル製のヨロイも消えていた。

 炭化した金属の破片が、ロバートの周りに散らばっている。服の周りに、ススがこびりついていた。


「ご、ごおおお!」


 ロバートのすぐそばで、手のひらサイズにまで縮んだセルベールがムクリと起き上がる。


「な!?」


 まだ、生きていたのか。たしか魔族は、身体を小さくすればチキュウにも潜伏できるのだった。


「しまった!」


 ヨロイの跡を確認する。

 おそらく、セルベールの破片が、まだヨロイに付着していたのだろう。

 それを確かめずに、セルベールの侵入を許したというのか。


「お、おのれロバート・デューイ、そしてこのチキュウ! はがああああ!」


 セルベールの身体が、炎に包まれた。


「そうか、太陽! この太陽が、我々の魔力を破壊してしまうのですかぁ! ぬかりました!」


 焼けただれていく顔の皮膚を持ち上げるが、間に合わない。セルベールの身体は、段々と焼け落ちていく。


「無念。チキュウを支配できず、元の世界にも!」


 哀れだ。しかし、これまで行った彼の所業を考えると、同情する気になれない。


「そのまま朽ち果てていけ。セルベール」

「ふっはは! それはお前もですよ、ロバート・デューイ! あなたは、この世界で生きていけますかな? フハハハ!」

「生きるさ。ボクは、お前とは違う」

「ま、負け惜しみを。先に地獄で待っていますよ! ぬおおおおおおおお!」


 とうとう、炭さえ残らずセルベールは消え去った。 


 本当に、魔法はなくなってしまったのだ。

 これからは、ただのロバート・デューイとして生きていかなければならない。

 しかし、本当に大丈夫だろうか。

 魔力もなくて、ヒナマルをどうやって守ってあげれば。



「そうだ、ヒナマル!」



 ヒナマルがいない! 


「ん?」


 ヒナマルは、手に荷物を持って茂みから現れた。


「はい。どうぞ」


 缶に入ったなにかを、ヒナマルがロバートに渡す。

 どうやら、ドリンク類のようだが。開け方を教わり、自分も飲んでみる。


 甘い。


 これは、ポーションか? そのたぐいのような味がする。しかし、洗練されていた。


「飲料水ね。ノドが渇いたから買ってきた。でさあ、誰かと話してた?」

「いや。何も」


 セルベールのことなんぞ、ヒナマルに話したって仕方がない。もう済んだことだ。

 なにより、魔族はこのチキュウでは生きられない。

 その事実がわかっただけでOKだ。


 しゃがみこんだヒナマルの前に、ロバートは姿勢を正す。


「ヒナマル、この世界のこと、もっと教えてくれ。お金を手に入れる手段だって必要だ。だから、キミが学校を出るまで、キミを守るすべを考えようと思う。自分なりに。だから」


「うん」


「待っていてくれるか?」


「わかった。卒業まで待っていてね」


 ロバートは、ヒナマルと抱き合った。


「ヒナマル、ずっと言えなかったけど」


「はい」


 たった数文字伝えるだけ。なのに、こんなにも緊張するものなのか。



「……好きです」



 やっと、言えた。本心を。


「あたしも好きだよ。ありがと、ロバちゃん」

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