追放DT

 ジーク王子から何を言われたか、ロバートはよくわからなかった。


「え、今なんて?」

「キミは、この世界でお尋ね者になったんだ」


 聞き返すロバートに対し、王子は冷静に言葉を続ける。


「ボクは今から、キミを無実の罪でこの世界にいられなくしてやる」

「証拠は、作りましたー」


 ヘザーの手で、写真が作り変えられた。「ロバートが、魔族と共謀して世界を破滅へと導こうとしている」ように見える。実際は「ヒナマルとミュリエルが並んで撮った写真」なのだが。


「どうして、こんなことを!?」

「こうでもしないと、キミはいちいち理由をつけてヒナマルと離れようとするだろ!」


 真剣な口調で、ジーク王子は怒鳴った。


「あなたはいちいち誰かに背中を押してもらわないとー、お嫁さんも手に入れられない人なのでー。世話を焼かせるなですー」


 歯に衣着せぬ言葉を、ヘザーが吐く。


「さすがに今回ばかりは、オレもヘザーに同意だな」

「レックスまで」


 本格的に、ロバートはこの世界にいらない人間となってしまったようだ。


「わかったら、キミも一緒にチキュウへ行くんだ。それとも、この世界に未練などがあるのか?」


 考えを巡らせるが、ロバートに明確な答えは出ない。


「誰も、キミがいなくなっても困らない。むしろ、キミに必要なのはヒナマルだけのはずだ」


 ロバートは、ヒナマルの方へ振り返る。


「魔力が消えるのが怖いかい?」


 王子からの問いかけに、ロバートは小さくうなずいた。


 なくすといったら、それくらいだろう。長年練り込んできた魔力や戦闘技術。その全てを、チキュウに行けば失うのだ。


 しかし、それがなんだというのだろう?


 事実、ミュリエルやパーシヴァルは、チキュウに降りてすべての力をなくした。でも、こうして元気にやっている。


 ロバートの悩みなど、些細なことではないのか。


「そうか。そうだよな。世界も心配することはないみたいだし」

「最強のレッドドラゴンが、魔王の束縛から開放されて味方についたんだ。当分は、魔物が出ても対処できるさ」


 王子に続き、レックスも「そうそう」と相槌を打つ。


「いってらしゃいませー。ロバート」


 ヘザーが、手を振ってくる。


「でも、オババが」


 ロバートが心配しているのは、今までついてきてくれていたミニム老師のことだ。魔力がないなら、もう会えないだろう。


『気にするでない。用があれば、また会えようぞ』

「そんなもんなのか?」

『うむ。魔力を最小限に押さえれば、造作もなし。要は強すぎる魔力が、チキュウでは機能しなくなるようじゃのう』


 魔力をセーブすれば、問題なく世界同志を行き来できるらしい。


「ミニムオババァ……」


 ヒナマルが、ミニムに優しく手を添える。ミニムをなでながら、熱いものを流す。


「オババ、一緒につれていけなくてごめんね」

『ええんじゃ、ええんじゃ。ワシの身体は、向こうでは維持できんからのう。ヒナマル。短い間じゃったが、世話になった』

「ありがとね、オババ。自分の家のばあちゃんが生き返ったみたいで、楽しかったよ」

『うれしいことを言ってくれるではないか。その気持だけで、ワシは十分じゃ。さあ、本当の家族の元へ帰るがよい。そして、できれば』

「んっ?」

『我がダメ孫も、家族に加えていただきたい』

「はいっ」

『ありがたい。では、さらばじゃ』


 ミニムが、ヒナマルから降りた。ジーク王子の肩に止まる。 


「僕たちは遠くから、キミたちの将来を見守っているよ」

「わかった。ありがとう王子。みんなも元気で」


 ロバートが別れを告げると、魔法陣が小さくなっていった。


「早くいけロバート。向こうへ行くゲートが縮んでいく」

「行くよ。みんな今までありがとう! ヒナマル、行こうか」

 抱き寄せると、ヒナマルは小さく「うん」と言った。



 ロバートたちは、光の中へ。

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