File08:EF-2000
NATOに加盟しているヨーロッパ諸国が共同開発した機体、EF-2000。この名前で呼ばれることは少なく、大抵の場合はタイフーンと呼ばれる。空戦能力はもちろんのこと、対地攻撃能力も持っているマルチロール機である。機体の生産、アップデートを三段階に分けて行う方式を採用している。現在は第三段階のトランシェ3まで開発が終了している。また、さらに改良が施されたトランシェ4の計画が進んでいる。しかし、タイフーンは性能が低く、基礎設計も旧式化しているため、イギリスではタイフーンを売却し、最新のF-35を購入するといった事態に陥っている。
2013年、アフリカで起こった紛争にEUやアメリカが介入することになった。この介入ではEU諸国の戦闘機はタイフーン、ラファール、ミラージュ2000、グリペンが投入された。これらの戦闘機は爆装で出撃し、地上への爆撃、あるいは味方地上部隊への近接航空支援が任務のほとんどであった。
今回の作戦は占領された街を奪還することだ。 敵は街の地形を使ってゲリラ戦を仕掛けてくるだろう。戦闘機の役目は空からの偵察、および近接航空支援だ。街中では威力のある爆弾やミサイルは使用できない。攻撃は手持ちのマシンガンか近接刀、もしくはバルカンでするしかない。しかも敵は携帯式防空ミサイルシステムを使って戦闘機を攻撃してくるかもしれない。戦闘機にとっては圧倒的に不利な戦場だ。
「作戦開始!」
司令官の号令で作戦が開始された。地上部隊が進軍を始めた。戦闘機も離陸し、上空からの偵察を始める。
「妙だな。」
地上部隊の一人がそう呟く。
「先日の偵察だと、この街には相当数の戦闘員がいたはずだ。我々が進軍してきたともなれば即座に攻撃すると思うが。」
「油断するな。敵はいつ攻撃してくるか分からん。」
戦闘機も偵察を行うが、敵はまだ見つからない。きっと上から見えない場所に隠れているのだろう。
建物の影から戦闘員が出てきた。地上部隊はすぐさま銃を構え戦闘員を撃った。戦闘員が倒れた後、すぐさま別の戦闘員が現れる。戦闘員はRPGを担いでいた。戦闘員が引き金を引き、弾頭が発射される。弾頭は戦車に直撃し、戦車は爆発、炎上した。歩兵は機銃で戦闘員に撃ち返した。戦闘員は即座に建物の陰に隠れた。
タイフーンのコクピットからロックオンアラートが鳴る。地対空ミサイルにロックオンされているのだ。パイロットはタイフーンを機動させロックオンを外す。アラートが鳴ったということは相手はどこからか体を出しているということだ。パイロットは周囲を索敵する。建物の屋上に戦闘員が携帯式防空ミサイルシステムを担いでこちらを見ているのを捉えた。タイフーンはマシンガンを戦闘員の方向へ向けた。ミサイルアラートが鳴る。タイフーンはフレアを焚いてミサイルを逸らせる。パイロットは引き金を引き、タイフーンに弾丸を発射させる。発射された弾丸は戦闘員を潰し、建物を貫通した。
その間に地上部隊の方では歩兵と敵の戦闘車両が撃ち合っている。歩兵は近場の瓦礫を盾にしてなんとか対応している。戦車は先の大破した残骸のせいで動けてないようだ。
パイロットは戦闘車両にレティクルを合わせた。引き金を引く。弾丸は戦闘車両を貫き、戦闘車両は沈黙した。歩兵は戦闘車両を囲み、中から戦闘員が出てくるのを待つ。
しかし中からは一向に人が出てこない。仕方なくドアを開けると、そこには肉すら残っていない空間が現れた。ドアを開けた歩兵の1人は苦い顔をしたあと、隊長に車内に戦闘員が残っていないことを報告した。
地上部隊は前進を続けた。道中で戦闘員と何回か戦闘になったが、一人残さず殺害した。
タイフーンも偵察を続ける。敵の戦闘車両や装置はタイフーンが先行して破壊していった。
「もうすぐジェット燃料が切れる。そちらへ合流する。」
タイフーンは残り少ない燃料の中で地上部隊と合流した。これからは歩行によって地上部隊と同行する。
歩兵は時々、建物の中へ入って行った。戦闘員が建物に潜んでいないか確認するためだ。時々、屋内から銃撃音が聞こえてくることもあった。戦車は戦闘機は建物の中には入れないので見守ることしか出来ない。ゲリラ戦しか出来ない戦闘員と訓練を受けたプロの歩兵との間に圧倒的な実力差はあるが、それでも歩兵に損害が出ないとは限らない。外で待っている味方はただ待つしか出来ないのだ。
建物の角から人が出てくるのが見えた。戦闘員だ。外で待っていた戦闘機や戦車はすぐに迎撃体勢に入る。戦闘員の肩には歩兵携行式多目的ミサイルが担がれていた。戦闘員は機銃で殺害されたが、その間際に引き金を引いたらしく、ミサイルが発射された。ミサイルは上方へ飛ぶ。恐らく、戦車の弱点である車体上部を狙ったのだろう。弾頭は頂点に達した後、落下してくる。ミサイルを迎撃しようとするが、戦車では仰角が足りない。タイフーンがその機体を盾とし、ミサイルを受ける。タイフーンは跪く。
「戦闘機のパイロット!無事か!」
戦車部隊の隊長が呼びかける。
「体は無事だ。機体もまだ動ける。」
ミサイルの直撃を受けたタイフーンが動けるはずがない。タイフーンは発電装置を損傷させ、モーターに電力を送れない。さらに胴体に搭載されたバルカン砲がいつ誘爆するか分からない。
敵の戦闘員達が再び出てくる。手にはアサルトライフルが握られていた。戦闘員は一斉に攻撃を始める。タイフーンがその身に弾丸を受ける。アサルトライフルの弾丸では戦闘機にダメージを与えることは出来ない。
突如、上方から戦闘員が撃ち抜かれる。
「こちらチャーリー、建物の制圧を完了した。」
建物の制圧へ向かった地上部隊が無事戻ってきたようだ。これに合わせ、戦車部隊も攻撃を始める。前方にいた戦闘員は全て蹴散らされた。
地上部隊は前進を再開した。
一方のタイフーンは全く動けない。損傷した発電装置が燃える。それは黒煙となって機体の外へ出た。
「パイロット!その機体はもうダメだ!脱出しろ!」
「いや、ダメだ。ハッチが飛ばないんだ。脱出出来ねぇ。」
機体から炎が出た。歩兵の一人が消火器を持ち出しタイフーンの消火を始める。火の手は収まらず、ついに爆発した。
歩兵の1人はタイフーンがいた場所に敬礼をした。すると、他の歩兵たちも続けて敬礼をした。身を挺して部隊を守ってくれた英雄の死を無駄にするわけにはいかない。地上部隊はタイフーンの残骸を残して進軍を続けた。タイフーンが先行して敵戦闘車両を破壊してくれておいたおかげで進むのは早かった。
ついに地上部隊は街の奪還に成功した。
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