「春から大学かあ」


「なんで地元の大学なのよ。わたしとお父さんの血を継いでるのだから、もっといい大学に行けたでしょうに」


「やだ。おとうさんとおかあさんと一緒に住む。ふたりの十数年越しのいちゃいちゃを、にやにやしながら眺めるの」


「なんだそれ」


「おとうさん。見てあれ。電光掲示板」


「おおお。何回見てもすごいなあ」


 駅前の電光掲示板を眺める、父と娘。


「もうすぐ、わたしの好きなラジオの時間なの。この電光掲示板の前にいると聴けるんだ」


「私も聴きたいなあ」


 このふたり。すっかり馴染んでいる。


「おかあさん。お小遣いちょうだい。アイスとおでん買ってくる」


「何よ、そのチョイス」


「冷たい物の後は温かい物でしょ」


 母親。財布から、紙幣と小銭を取り出しながら。


「あなたのほうがお金持ってるわよね?」


「買い食いは親の小遣いでやるからみるのよ」


「おとうさんのお金をあげようか?」


「おとうさんカード出すからだめ。王様はいつだってカードで解決しようとするんだから」


 娘が、小銭と紙幣を手に。ビルの入り口のコンビニエンス売り場でお買い物を始める。楽しそうだ。それについていく、父親と母親。


「電子決済は民主主義の究極の形だとおもうんだけどなあ」


「電子空間のお金を信頼によって取引するからとか言うんでしょ」


「ブロックチェーンね」


「そんなだからあなたお財布落とすのよ」


「もうしわけない。次からは、ほら。お財布と腰のベルトを繋いだから。これで落とさないよ」


「ウォレットチェーンね。国王がウォレットチェーンとか」


「元国王だし、世界ニュース的には暗殺されて亡き者ですよ」


「よし。これだけ買えば大丈夫。おとうさんおでん持って。おかあさんはアイス」


「おっ。おおお。あつつ。熱いね」


「わたしは冷たいわ」


「ごめんね。ベンチに行くまでふたりとも我慢して」


 ごめんね。


 それが彼女の口癖。自分を妊娠したせいで、離ればなれになってしまった父と母への、謝罪の言葉。


「もう、謝る必要はないんだよ。君のおかげで、今こうして、三人で暮らせている」


 そのたびに。


「あなたが生まれてきたことは、わたしたちにとって、最も嬉しいことなの。あなたの成長をこの目で見れるだけで。わたしたちはしあわせなのよ」


 父親と母親は。


 娘を抱きしめて、愛情を伝える。


「ありがとう。うれしい。わたし。おとうさんとおかあさんの子供で、よかった」






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国王暗殺 春嵐 @aiot3110

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