04 final & prologue.
警報音。
「国王。賊が場内に侵入しました。退避を」
ついに。この日が来た。
王の子供として生まれてから。この日をずっと、待っていた。
「いや。いいよ。それほど王権が低下したというなら。賊の凶刃をあまんじて受けよう。
王政なんて、今の時勢にはそぐわない。さっさと議会制なり民主制なり、とにかく資本主義経済に合致した政治体制をつくるべきなのに。
この国は延々と王制を続けていた。それも。もうすぐ、終わる。
「王。そんな」
「ほら。みんな逃げなさい。大臣。きみには国璽を守る仕事を与えよう。然るべきときに、然るべきものへ渡すこと。いいね」
大臣にも臣下にも、常日頃、王制よりも民主制のほうが良いと口を酸っぱくして教え諭しているので。民主化の以降もスムーズだろう。
「国王っ」
手で追い払うしぐさ。みんな、名残惜しそうにしてから、出ていった。
これでいい。新しい政治体制が確立されるとき。旧体制は派手に壊されないといけないのだから。
何か。入ってきた。
「おや。これは不思議な賊だな」
ドローン。小さいからだに、たくさん爆発物のようなものを積んでいる。
『あっ。あああ。ええと、聞こえますかあ?』
若い女性の声。どこか懐かしい。
「民主化のテロリストか?」
『あっ違います』
「違うのか」
まあ、民主化するのなら誰でもいい。
「お前の罪は一切問わない。むしろ感謝しているよ。国外のタックスヘイヴンに秘匿してある私の資産をプレゼントしよう。微々たるものだが」
『えっいらない』
「おお。素晴らしい信念だ。ありがとう。では資産は国民に振り込むとしようかな」
『死にたいの?』
「死にたいよ。国王という生き方は、どうにも合わなかった。普通に生きて、普通に死にたかったよ」
『へえ。普通って、何?』
「平日はお仕事をして。休日になるとだらだら寝転んで。たまに買い物行って。妻と子供がいて。そういう、普通だよ。王の座にいては、一生手に入らないものだとも知っている。というか、教えてくれた親切な人がいた」
『親切な人?』
「ああ。こんな私にも、普通について教えてくれる人がいたんだ。十年以上前の話だがな」
『あ。もしかして。初恋の人?』
「そうだな。そうなるな」
『おかあさんじゃん』
「ん?」
『わたしね。あなたの娘。わかる?』
「そんなばかな」
彼女。みごもってから、おなかの子のために生きると誓ってくれた。そして自分は、国のために生きると。彼女に誓った。
『あれでしょ。おかあさん今いろんな方面に圧力かけておとうさん助けようとしてるんでしょ』
声の懐かしさ。そうか。彼女に近い、声。
「本当に。私の」
『あ、時間ないや。ドローンの充電切れちゃう。緊急退避用の通路とか、あるよね?』
「ない。そんなものは」
大臣と臣下に使わせた。
「王」
大臣。臣下。
「おい。逃げろと言ったではないか」
『あ。おとうさんの部下の方々ですか。どうも』
「賊よ。どうか王を。殺さないでください」
『うん。殺すふりだね』
殺すふり。
『今からこの部屋を爆竹と閃光で派手に壊して、王様は木っ端微塵に爆散したことにします』
ドローン。器用な動きで、部屋に爆発物のようなものを置いていく。
『臣下さんは民主化の仕事あるんですよね。王は民主化を望み孤独に死んでいった的なこと、喧伝してもらえますか。あと敵対勢力の排除』
臣下。頷いている。
『じゃあ、後は国王様の身柄だけですね。爆発擬装はこちらでやるので、なんとかしておおとうさん、じゃなかった、国王を。国外に逃がしてください。たぶんわたしの国の外交派出所が助けてくれると思います』
「君は。本当に。私と彼女の」
『あっそういうのは会ってからにしましょう。はい、いきますよお。爆発しまあす』
王の居室から。
爆発音と、閃光。
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