第16話 バレてる
次の日、わたしたちは同じ早番だった。
「おはよ」
「おはよう……」
素っ気なく挨拶しているわたしたち。でもなんかなんというかお互い気にしてしまうのか、意識してしまうのかもぞもぞしあってしまう。
言葉も交わさないけどたまたますれ違ったときに変に敬語だったり、業務中に手が触れ合うとドキドキしてしまって。
しかもこのあと四連勤。偶然にも同じ時間帯の勤務。2日目、夏姐さんに勘づかれて速攻その昼は喫茶店直行であった。
「なに、あんたたち。午前中のなんかじれじれしてるというか、変な雰囲気2人で醸し出して。勤務中なのにやたらと目配せしたり……」
今回は夏姐さんから折半するということを言われ自腹ともあって安いランチにした。
私と常田くんは向かい合わせで座らされていやーな雰囲気。
「いや、特になにもないですよ姐さん」
「あったね、これは。梛に手を出したでしょ」
「だ、だしてませんって! ねぇ、梛さん……」
常田くんに目線がきて、私も高速で縦に首を振った。がそれがさらに怪しく思われてしまった。
「昨日も2人一緒に帰ってたでしょ。梛の車に乗って」
「そ、それはー駅まで送って行っただけで」
確かに駅まで送って行っただけである。でも車内は無言であった。ドキドキというか、あっちもなに考えてるかわからないし。でも嫌な雰囲気じゃなかった。
わたしたちはあの日、結局泊まりにせず帰った。私は処女(というのか?)で常田くんは意外にも童貞で。
互いに初めて同士だからそれはリスキーだととりあえず年上の私は判断して。
(性的処理的なものは個別でした……情けない)
昨日の帰りは常田くんが待ち伏せしてたから車に乗せただけであって……。
「常田くんにも話したでしょ。軽い気持ちで梛と付き合うなって」
「はい……」
あら、常田くんも個別夏姐さん尋問ランチがあったようね。
「でも軽い気持ちじゃないっす。それになにも、してない……キスはしたけど」
「キスはしたんか……」
あああああああっ! 恥ずかしいっ。
「本気です、夏姐さん」
「……大丈夫なの? 梛は」
大丈夫かって言われても……。なにが大丈夫って。あの日の帰りも、車内は無言だったけど昨日の帰りも別れ際に車の中でキスをした。
その時の常田くんの顔は真剣そのものだった。キスも最初のほっぺチューから、高台の上での軽いキスから、私の教えてあげた濃厚なキスになっていた。不器用ながらも長く長く……何度か見つめ合って。彼から主導して。覆いかぶさって心臓やばくばくが聞こえそうでヤバかった。彼の顔の後ろ、いつも輝く月は無かった。
「顔真っ赤、梛」
あああああああっ! 恥ずかしいっ。顔に手を当てると頬が熱い。
常田くんも顔が真っ赤。ダメだ、わたしたち……高校生カップルみたいじゃない。で、夏姐さんが先生。
「まぁ、喧嘩しないで。仕事に私情を持ち込まない。図書館でイチャイチャしなければ行き帰り一緒に帰ってもいいから。以上!」
夏姐さんは先に食べて返却口に返しに行った。私と常田くん2人きり。まだ2人ともご飯残ってる……。
「2人で食べるの、初めてやな」
「う、うん……」
な、なんなの。わたし……常田くんにドキドキしてる。ずっと私の部下だった子が、いつのまにか……好きな人になっている。
「食べよや、夏姐さんの奢りやし」
「嘘っ、自腹って言ってたよ?」
「今さっき会計でシャリーンゆうてたで。全員分って」
そんなの聞いてなかった……常田くんにドキドキしてたから。夏姐さん、なんで太っ腹!
ああーん! だったら高いランチたのめばよかったああああ! って、よく見たら常田くん、高いランチよね。ニヤッと常田くんは笑った。
「へへっ」
「なんてせこいやつ!」
「そんなことゆうなら梛のために残しておいた蟹クリームコロッケあげない」
「えっ、欲しい。てかいま、梛って……」
常田くんはニカーッと大きく笑った。私の好きな笑顔。もう憎めないやつ。
私は彼からもらったカニクリームコロッケを食べた。……世渡り上手のお調子者で憎めないやつ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます