第17話 繊細さん3

 毎日が本当輝いている。朝はいつもどおり本を回収に返却箱に行くと門男さんが待ってる。

「おはようございます」

「おはようさん」

 絵本を紹介したことで、笑顔で挨拶されるようになった。隣には奥さんがいる。彼女もニコッとしてくれて、なんて微笑ましい……。


 門男さんが新聞を読んでいる間に奥さんは孫のための絵本を選んだり、雑誌を読んだり。そのあとは喫茶店でまったり過ごすようだが(後をつけた)週に一回ついてくるようになったのだ。


「こないだ借りた絵本、莉乃ちゃんが大喜びでっ。気に入ったからまた延長しよかなーって」

 奥さんは門男さんとは違ってハキハキしている。

「よかったです、結構昔からあるベストセラーなので赤ちゃんはこういう色のはっきりしたものが好きなんですね、きっと」

「だるまさんの絵本も気に入ってるのよー。これシリーズがあるんでしょ?」

「はい、だるまさんと、と、だるまさんの、があります。在庫多分あったと思います」

「きゃー、それ借りましょう! 借りましょう!」

 しましまぐるぐると、だるまさんがという二冊の本。赤ちゃんの参加する読み聞かせではこれらの絵本を見せるとジーっと見てたり、喜ぶ子たちも多いのだ。


 こういう反応を見るのが好き。子供は本当に可愛い。だからわたしは絵本も好きなのだ。




 エレベーターで本を運ぶと、常田くんがやってきた。

「常田くん、この本予約あったはずだからカウンターに持っていって」

「はい、了解しました!」

 と敬礼ポーズする常田くん。……かわいい。彼はスタスタとカウンターに戻る。わたしたちは恋人になる前と同じように業務ができるようになった。それは半月経ってから。


 頭の中が全部彼じゃ無くなったし、うん。とか言いつつも同じ時間帯の出勤の時は行き帰りは一緒。夏姐さん公認だもんね。だからまわりもなんとなーく気づいてる人もいるようだけどアンオフィシャル。


 休みの日は隣町の図書館にデート。それでおしまい。ラブホはあれ以来一回も行ってない。けど帰りの車は常田くんがチュッチュと甘えてくるから……なかなか帰らない。でもわたしは帰らしたけどね。


「梛さんっ、小学校の仙台さんからお電話入ってます」

 とパートの子が私を呼んだ。……せ、仙台さんっ。朝から! って私は常田くんと付き合っているのに浮かれてどうする。



 だってこないだ……名前を教えてからその後すぐ電話が来て図書館見学の件で打ち合わせをしたいって。その後来てくれたのよね。図書館を案内しながらどういう順番で、どういうことを案内するかを2人で考えたのよね。

 するとその時仙台さんが

「なんかこうして図書館の中を隅々歩いていると梛さんとデートしてるって錯覚してしまうよ、なんちゃって」

 冗談を言ったのだ。


 頬が赤くなってたらどうしようって。いや、仙台さんくるから少しメイクを濃くしちゃったのよね。

 そしたら案の定常田くんにやけに今日はメイク濃いって言われちゃったなー。


 ふと電話に出る前に常田くんと目があった。なんかジーって見てる。あ、浮気じゃないのよ。お仕事なんだからっ。


「は、はぁい……東雲です」

 しまった、仙台さんとわかっててつい声が高くなっちゃった。

『やぁ、梛さん。ごめんね開館すぐに電話しちゃって』

 あああっ、仙台さんの声……。ドキドキしてきた。


 浮気じゃないもん!





◆◆◆


 帰りのとき、常田くんが先に待ってた。

「お疲れ」

「お疲れ様」 

 いつも通り助手席に座らせてレッツゴー! そんなに距離はないけどこれが貴重な2人の時間。


 でもなんか今日の雰囲気……なんかおかしい。常田くん、なんかむすっとしてる。外の景色見てる。


 そして駅近くのコンビニで下ろすのが決まり。影になってるからキスもしやすい。


 けど着いたのに降りるどころかキスもしてこない。どうしたの? 常田くん。なんか機嫌悪い。


 と、そのときだった。


「梛、ホテルいこや」

「はい?」

「いいから」

「……本借りた。その、男同士でも、その……」

 カバンから借りてきたという本を取り出してきたのだ。同性愛者の手記であり、私も読んだことあるけど方法と言ってもざっくりしか書いてなかったはず。


 て、て、て! するの?


「梛の全てを愛したい……」

 少し顔を真っ赤にしている常田くん。


「もう十分愛してもらってる……それにあなた明日早番でしょ? 私休みだけど」

 彼は首を横に振る。


「今日、梛と……したい」

 握ってきた手は凄くて汗が酷かった。

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