第15話 二人きりの場所

 2人きりになれる場所なんてどこでもある。車の中でもそうだし、カラオケもそうだし。


 なのにわたしの車はラブホテルに入ってしまった。


 まて、わたしは好きですなんて返してないのになぜここに。自分のした行動なのに、なんなんだろう。


 常田くんは助手席で黙って座ってる。着くと車から降りてキョロキョロ。わたしに寄り添ってきて手を繋いできた。

 可愛い。こんな可愛い常田くん見たことない。いつもチャラい彼がこんなに潮らしくなるなんて。


 もし仙台さんだったらわたしの腰に手を回してエスコートしてくれるだろう。

 いや、彼はラブホテルなんて似合わない。数回目のデートにどこか高級レストランでご飯してから、夜景が見える高級ホテルで……という感じだろう。はぁ、ロマンティック。


 そんなことされたことないっ。妄想の中では何度もだけど。ましてやラブホテルなんて初めてだ。


 って常田くんをラブホに誘導してるのにまた妄想してるのわたし。彼は照れて真っ赤になってる。


「明日わたしたち早番だから泊まらずに……」

 と、部屋を探してるその手を常田くんが握った。


「いや、泊まりましょう」

 !!!

 眠くなったーって寝ればいいよね。うん。て、自分でラブホに誘導しといてっ。



 常田くんのお泊まり発言からわたしは記憶がない。



 気付いたら布団の中。彼は全裸だけどわたしは黒のキャミワンピを纏って。


 バックミュージックはオルゴールのBGM。


 2人寄り添って。しかも常田くんに腕枕されてる。ああ、男の人に腕まくらされるのってこんな感じなんだ。ドキドキ。オスの匂いをこんな近くで感じるとさらにドキドキ。


「梛さん」

「はい……」

「司書になってあの図書館に勤めることになって梛さんが僕の上司だって言われた時から好きやったんすよ」

 だいぶ前からじゃん!


「でも梛さん、指輪してたから恋人いるのかなって……」

 あー一時期帰る時に指輪を付けていたけどおしゃれだったわけで。


「その時に周りから梛さんが男って聞いて」

「ふうん……」

 普通そこで諦めた男の人が多かった。諦めたというかひかれたというか。


 何度も男の人に声をかけられてどのタイミングで自分の本当の性を告白するのか悩むところだけど今日みたいに盛り上がりすぎてキスして抱き付いた時に体つきで男ってバレたり、トイレでバレたり……。

 だから盛り上がる前に男であることを言うと、顔色変わるのよね、大抵。


 常田くんはだいぶ前から知ってたのに……なんで。


「でも僕はずっと梛さんと働いて、近くにいて可愛いって思ってたんです」

「そうなんだ……」


 そんな人珍しい。口ではわたしが男でも受け入れるよ、なんて言う人もいたけどやっぱり連絡がなくなった。


「数年前に指輪なくなって……よしっ、と思ってからかなりたっちゃったっすけどね」

 あーたしか無くしたから……やめただけなのよ。



 今は同居人のネネがいるけど、彼女はあくまでも同居人だし、あっちはわたしのことを可愛い可愛いとか言って着せ替え人形みたいに服を取っ替え引っ替え。

 セックスはしない。もちろんキスも。あっちはたまに男連れ込んでるしね。私が男にしか興味ないって知ってて。ただ家賃を折半したかっただけなのよね。あとお店のいい金蔓。服ももらってばかりじゃなくてお金払ってるんだから。ネネ好みの服ばかり。


 わたしは男の人が好きなのになぜか女の子が寄ってくるんだもん。なんか中性的な男の子が好きーっていう女の子が多いんだよね。でもそれ以上進めない。


 今、横には常田くんがいる。わたしを好きでいてくれる……男の人がいる。


 35歳にして初めて……。


 て、こっからどうするんだろう。するとグッと肩を引きよされてさらに体が密着する。

 ひやぁああああ。

 キスされて、こっからどうすればいいのぉおおおおお。そんなことで悩んでたら仙台さんの時はどうすればいいのよ。それ全く考えてなかった!


 常田くんがわたしに覆いかぶさるっ。黒キャミワンピは脱いだら幻滅されるし、同じもの持ってるし……どうすればいいの?


「梛さん、僕……チャラいキャラやってますけど」

 はぁ。

「初めてなんすよ」


 バックミュージックのオルゴールの音が大きく感じた。


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