第8話 姐さん2

 閉館は8時。私と夏姐さんは早番だったから常田くんはまだ仕事。

 それまで私と夏姐さんで図書館を散策。ってずっと図書館にいることになるけど私たちは本が好きだから別に平気。

 仕事中も気になる本はあるかどうかとか見れるけど返却作業など仕事に追われてじっくり読めない。だから相当疲れていない限りは閉館時間まで利用者として残ることが多い。


 私もある程度目をつけていた本をピックアップしてワゴンに入れて借りる。

 夏姐さんはさっきからずっと児童コーナーの一角に座ってとても色鮮やかな本を読んでいる。

 あれやらこれやら読んでは入れ、読んでは入れを繰り返している。子供の本を真剣に読み漁るなんて珍しい。彼女は新書や専門的な本が好きなのだが。

 よくよく見ると読んでいるのは全部おまじないや占いの本ばかり。


「おう、梛。借りた?」

「はい。数冊借りられちゃったけど残っているのもあったので」

 図書館はまずは利用者さんが優先。貸し出す前に製本された後に少し読む時間あるのだががっつり読むことはできずに新刊コーナーに置かれ、人気作はすぐ借りられてしまうか予約棚に行く。


「さっきから占いとかおまじないの本ばかり……好きな人でもいるんですか」

 すると夏姐さんは笑った。彼女は私が知る限り何人も付き合っている人はいた。なぜなら忙しい彼女に会いに彼氏が図書館に来るのだ。

 タイプは様々で大人しい人もいればチャラい人(常田くんよりもチャラい)もいれば、怖そうな人、頼りない人、一貫してない。

 専門書付きにも訳があるのだが、付き合ってる人たちの職業を徹底的に本を読んで調べるのである。

 彼女は記憶が得意でのめり込むとあっという間にマスターし、聞かれればその知識がバンバン出る。

 常田くんはそんな夏姐さんを歩く専門書と言っていたが……。


 ただ相手に影響されやすいだけかもしれない。それはそれでいいことである。

 でも流石に恋愛に関して占いやおまじないに頼るような人ではない、夏姐さんは。


「いや、そのね。そろそろわたし40超えるし、なかなかいい人に出会えないからこういうのに頼ってもいいかなーってさ」

「そんな、夏姐さんはモテモテですよーわたしはタイプですから」

「ありがとう、お世辞じゃなくてしっかりそう言ってくれる梛が好きー」

 とても美人でスタイルも良い彼女。なぜ決まった相手ができないのだろう。勝手ながら常田くんやパートの子たちと夏姐さんがいないところで話し合ったけど、やはりのめり込み過ぎてしまうところがダメじゃないかと。

 そして気にいるととことんお世話したくなる。お世話される側は最初は嬉しいけどだんだんそれが当たり前になっていく。そしてだんだん口煩くなってきて嫌になってフェードアウト、またはダメになり過ぎて姐さんに捨てられたか。


 だが一人。

「子供が3人もいるからですよ」

 と。

 その場は確かにーとみんな口を揃えて言った。シンプルにそうである。相手は結婚したらすぐ子供3人の親になる。そんな覚悟はあるのだろうか。

 そして子供3人いてどうセックスするのか。セックスどころかキスもできない。

 隠れて、というのは無理。上から20歳、18歳、15歳の三兄弟。


 夏姐さん、幸せになってほしいよ。彼女はコーナーから離れて雑誌コーナーへ。

 とあるファッション雑誌の占いのページ。

「この雑誌の占いはよく当たるのよ」

 ふむふむとわたしもみる。夏姐さんは夏の初旬に生まれた。夏女そのものである。


「今月は幸せに満ち溢れた日々を過ごせます。恋愛は、ライバル多し。だってさ」

「前途多難だけど幸せならいいじゃないですか。私はモヤのかかったまま、いきなり恋に発展することもとか……」

「恋多き梛ーっ、今月も何かあるかもね」

「なんですか、今月もって」

 私の恋多きところは彼女は知っている。門男とじろーと繊細さんのことも。

「……幸運アイテムはアクセサリー……」

 私たち司書はアクセサリー禁止である。結婚指輪は除く。

 


「……最近であいったって何もない。出会うのは新しい本、新規の利用者さん……」

 すこし切ない顔をしている。……この様子だと酒飲みながらこのことをグダグダ姐さんは話すだろう。


 今夜もまた遅くなりそうだ。グダグダ酔い潰れるだろう、夏姐さん。

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