第7話 秋は夕暮れ

 夜は飲み会、と言っても3人だからな。しかも夏姐さんの愚痴をずっと聞く会なんだろう。


 にしても常田くんもって……まぁしょうがないか。私たち3人は正規雇用組のメインメンバーだから研修とかも一緒だし、夏姐さんはわたしの直属の上司、常田くんはわたしの直属の部下。つながりは強いわけで。


 常田くんは今落ち葉掃除で出て行ったきり帰ってこない。きっと無駄話でもしているのだろう。あの子は人懐っこい。


 わたしは夏姐さんの企画の本を探しに行く。そろそろ近隣の中学生や高校生も来るだろう。パートさんたちは子供たちの本を中心に棚に戻している。


 わたしは高校の頃から本が好きで図書館に住みたいとか言っていたことがあったが、数年後には図書館で働くことになり、少し夢は叶ったかもしれないがあの時よりも読む時間は減った。でも毎日のように本に囲まれる日々。幸せだ。


 あ、高校生が入ってきた。あの子はいつも一人で来て、すみっこの椅子で歴史小説を読む、すみっ子さん。でも今日は隣に男の子がいる。彼氏なのか? なのか?最近くる頻度が減ったから……彼氏にうつつぬかして図書館から遠ざかっていたのか?

 恋もいいけど本を読みなさい、エッチなことをせずに本を読みなさい。大人になったらいくらでもできるからっ。


 と平然とした顔で念を送る。


 そしてやっぱり常田くんはこない。夏姐さんに頼まれた本を渡して彼のところに行こう。



 階段をかけて施設の玄関前に行くとやっぱり常田くんはそこにいた。警備員のでんさんと楽しくお話ししてる。仕事中よっ。あ、気づいた。


「梛さん、綺麗にしたっすよー。もうしばらく大丈夫やで。なぁ、でんさん」

 でんさんはニコっと微笑む。

「まさか常田くん、でんさんにも掃除手伝わせたの?!」

 常田くんはニコニコ。


「へへへっ」

 ヘヘヘッじゃないの、その笑顔が可愛いのっ……。でんさんはニヤニヤしながら去っていく。

 お見合いをお断りしてからか何故かあまり絡んでくることがなかったけど落ち込んではいないわよね?


 て、いつのまにかわたしと常田くんで二人きり。空はオレンジ色。夕焼けの色が綺麗。日が落ちるのが早くなった。常田くんのメガネは少し色がついている。本人は目の病気でと言っていた。そう悪くないっすよー、とちゃらく言っていたけど目が悪くなったら本が読めなくなる。メガネが綺麗に光る。


 ダメダメ、なにぼーっとして。ミイラ取りがミイラになってしまった。


「ついでに本も回収していくわ」

「お、仕事してるねぇー」

「あなたも仕事しなさいっ」

「してるよー、夜楽しみだから仕事しなきゃ。寒い寒いー」

 と言いながら常田くんは返却ボックスから本を取り出す。で、わたしと二人で分担して運ぶ。


「寒くなったから風邪ひかないようにね」

「大丈夫っすよー。こう見えて健康ですから」

「夜も寒いかな」

「寒いけど居酒屋のどて煮で温まりましょう」

「夏姐さんの愚痴を聞きながら」

 恋の対象でなくてあくまでも弟、みたいな存在……そう思えばいいのだ。彼はどう思っているかわからないけどさ。


 そしてこの後、私たちは夏姐さんに遅すぎる! と怒られるのであった。

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