第6話 姐さん
「返却お願いします」
本の返却作業をする。大量の本、絵本がほとんどだがその返却主の女性の後ろから小さな子供がチラッと見えた。するともう反対側からもう一人同じ顔の子が。
双子!
可愛い、可愛い。子供は癒しである。同じ顔が二人。可愛い。色違いのお揃い。まだ全てのパーツが丸。可愛い。
この図書館では一人の名義で十冊まで借りれる。絵本が二十冊ほど、こんなにも読むのか? こんなにもたくさんの本をお母さんが持ってきたのだ。が、絵本が終わったかと思えば普通の本、しかも丁寧にバーコード側を見せて返してくれる。とても助かる。
これらはお母さんが読んだ本であろう。育児をしてでも本を読む時間はあるのか?
子供たちはまだ小さいから目を離せないしお世話するの大変そうである。
「子供の好きな食べ物レシピブック」
「子供の好き嫌いをなくす本」
ふむふむ、さっさっと返却作業しながらも本のタイトルを見て利用者さんの本はチェックしてその人はどんな嗜好や興味があるのかを妄想も楽しいものである。(余裕ある時は)
「双子育てました!ぴーちゃんとぷーちゃん」
双子の子育てエッセイ漫画ね、絵柄が可愛い。
「子育てが辛くなったら読む本」
!!!
そうよね、辛いわよね、双子たちは走り回っている。
「離婚してもいいですか」
こ、これは離婚を考えたというエッセイ……。だ、旦那様は……。
そして最後の一冊。
「一人で子供を育てるとは」
……。
わたしは手を止めずさっと返却棚に戻した。
「……」
双子のお母さんは子供たちを追っかけて絵本コーナーに行ってしまった。
どうか、この親子の未来が幸せであるようにと祈るしかない。
裏のスタッフルームではデスクでパソコン作業してる人がいる。
「最近ね、離婚に関する本の貸し出しが増えているのよねー」
夏姐さん。わたしより5歳上で先輩。3人の子供を育てるスーパーウーマン。そしてバツイチでもある。
「そうですね……中には借りずにコピーされていく方や、影でスマホで撮影してる方がいますし、別のコーナーに隠されていたり……」
「堂々と読めばいいのに。今はスマホでいろんな情報見られるからいいけど、わたしの時はスマホよりも本が助かったわー」
と、姐さんは企画展示の資料を作っていた。テーマは「育児と家族」
姐さんがこの企画を出すのはすごく訳ありがだが。
「梛ちゃんは子供好きよね」
「はい、好きです」
「そうよね、読み聞かせの担当はあんただったもんね」
そう、わたしは子供が好きだ。あの絵本コーナーで読み聞かせをやったり子供たちとイベントも好きだったけど今は全部中止である。
「可愛いけどね、育てるのは大変なのよ」
「はい……」
「どうしてもお母さんは孤独になってしまう。相談できる人もいない。それで産後うつで死ぬ人もいてね……」
と夏姐さんのデスクには漫画コウノドリが置かれていた。
そういえば産後うつで飛び降りた描写があった。わたしは子供を産んだことないけど残された赤ちゃんや家族や気持ちになると胸が苦しくなった。
でも夏姐さんや子育てを経験したことのある司書さんたちは違った。
「分かるのよ、彼女の気持ち。もしかしたらわたしも飛び降りていたかもしれない。ギリギリの時があったわ」
……わたしは母親側の気持ちはわからなかった。そういうことである、当事者しかわからない。
「僕もわからないっすねー、なんで死んじゃうんだろ」
常田くん……。
「こういう奴がいるからママたちも悩むんだよっ、このチャラ男めっ」
夏姐さんは常田くんの耳をつねる。
「いたたたたっ! でもコウノドリ読んである程度知識積んだんでいつでもOKすよ!」
心配である。でもドラマ化された漫画のコウノドリやエッセイ本などのおかげで妊娠、出産、育児というものの大変さを知る人も増えたであろう。
わたしもあまり興味なかったけどこうやって自分の体験できないこと、やらないことを疑似体験させてくれるのが本なのである。
「よし、今日は常田の反省会を含めてわたしと梛で晩ご飯食べにいくか!」
「マジっすか? もちろんおごりですよね?」
「馬鹿か!」
今夜は夜遅くなりそうだ。……LINE送っておかなきゃ。
『今夜は遅くなるから先に寝ていて』
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