第2話 NBNドキュメンタリー「未来から来た日本軍と戦った男たち」
「未来から来た日本軍と戦った男たち」
―1978年 アメリカ制作
「グレッグ・ノーマンです、今日はよろしく。テレビ局の取材は初めてだよ」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。NBNのサラ・アンドリュー・タケナカです」
「ほう貴女もサラというのですか。日系人?」
「四世です。残念ながら日本はトウキョウしか行ったことはありませんが」
「それは奇しき縁という奴だね」
「ええ、まったく。それでは軍に入られた経緯からお聞かせください」
「私はテキサス州の牧場経営をしている一家に生まれ、ハイスクールを卒業するまでテキサスから一歩もでたことがなかった。子どものころからフネに乗って世界中へ行ける海軍へ憧れた。夢は色あせることなく、私はハイスクールを出てすぐに志願した。あの硫黄島海戦当時、私はシスター・サラ、つまり空母サラトガに対空機関砲の砲手として乗艦していた。階級は…あの当時は伍長だったと思う」
「それではあの硫黄島沖海戦の時に、あなたがあの戦場で何をしていたのかをお聞かせください」
「もちろん。あの海戦で私はシスター・サラの機関砲手だった。日本軍の戦闘機や爆撃機を
「おそらく、それは日本軍が当時運用していた
「ああ、そんな名前だった。武器を積んでいるようにも見えなかったので鴨撃ちをするような感覚だったよ」
「その時、艦載機パイロットたちの様子はどうでしたか」
「そうだな…おそらく我々と大差無かったと思うね。日本軍がたいした抵抗を見せないことに拍子抜けして、このまま何事もなく戦争が楽に終わるのじゃないかという雰囲気があった。グアム作戦に参加した連中のことを思えば馬鹿馬鹿しい幻想だが、誰だって悲観的なことばかり考えていられる訳ではない」
「ええ、そうですね」
「もちろん、我々が油断していたとか、任務を怠っていたとかそういうことではない。ただ、青天の霹靂ってやつを予測できる霊感の持ち主ではなかった。良き普通のアメリカ軍人だったということだ。」
「わかります。私は記録映像を見ただけですが、あの破壊を想像することが出来た人はいなかったでしょうね」
「そう、まさか日本人が未来人とそっくり入れ替わっているなんて、神でもなければ予見できないことだ。そして、あの瞬間がやってきた。」
「あの瞬間とは、日本軍のミサイル攻撃のことですね。」
「そうだ。あの時飛行甲板ではレーダーが探知した日本軍の艦隊に向けて、艦載機の発艦が行われていた最中だった。重い魚雷を積んだ
四隻の空母の航空隊は前日まで硫黄島の爆撃に参加していた。昨日さんざん出撃をこなしていたから疲労が皆無とはいえなかったけど、日本軍の夜襲もなかったから睡眠時間は十分だったと思うね。
私自身は機関砲座で、機銃をいつでも発射できる状態で空を睨んでいた。日本軍の空母がこの機動部隊を襲うチャンスを無駄にするはずがないと信じていたからね。ミッドウェーの逆をやられる訳にはいかないというのが、上層部の念頭にもあっただろう。
とはいえ、空襲警報のサイレンが鳴った時は、どうせまたラジコン飛行機のことだろうと思ったよ。かの偵察機は我々の艦艇をつかず離れずの距離で追いかけまわしてましたが、武装はしているように見えなかったからね。
しかし、サラトガからはるか前方に位置していた戦艦―戦後、記録であれが『ワシントン』だと知ったのだが―の方で火柱が上がったのが見えた時、戦慄を感じて思わず機銃を握る手が汗で滑りそうになった。
分かるかね、戦艦というものがもつ頼もしさを。それがまるでナイフでガチョウの肉を切り裂くように易々と無力化された衝撃を。たった三発のミサイルが命中しただけで、戦艦が戦闘能力を喪うなんて、信じられなかった」
「日本軍によって航空機が戦争を決めるということが明らかになっても、戦艦はわかりやすい力の象徴でしたからね」
「ミサイルによる破壊は続いた。輪形陣を形作っている軽巡洋艦や駆逐艦が次々とスクラップになっていくのを呆然と見守るしかなかった。なにしろ、応戦しようにも音速で飛んでくるミサイルを、レーダーの助けがあるとはいえ肉眼で照準して機関砲で射撃するなんて芸当出来るわけがない。
無理矢理例えるとすれば、自動車レースでこちらが初期型フォードに乗っているのに、向こうは最新の競技用自動車に乗っているような感覚、といえばわかるかな」
「絶望的な差、ですね。それは」
「ああ、まさに絶望的だった。空母で真っ先にやられたのはホーネットだった。すぐ前方にいたから、肉眼でも艦橋にミサイルが突っ込んでいくのが見えた。艦橋構造物が縦に割けて、金属片や赤黒い何かが海面へ落ちていく光景は、今でも脳裏に焼き付いている。続いて逆落としに甲板に突き刺さったミサイルが爆発して、艦載機が空中高く放り上げられ、弾薬が誘爆して大爆発が起きたのも覚えている。
もっとも恐ろしいのはロケットエンジンの残燃料だった。あっという間に甲板上のほとんどが猛火で焼き尽くされたよ。気がついたら、真面目に通った覚えもない教会で教わった祈りの言葉をかすれるような声で唱えている自分に気づいた。」
「すいません、つらい思い出を語っていただいてありがとうございます」
「いや、いいんだ。今でも夢にうなされることもあるが、もう過ぎたことだからね」
「もしお辛いのなら、ここで…」
「いや、続けよう。ホーネットがやられて呆けていた自分は上官に殴られて、ようやく我に返った。気づけば、私たちのシスター・サラにもミサイルが迫っていた。レーダーで指示された方向へ向けてただ無我夢中にボフォース機関砲を撃ちまくった。あっという間に弾丸を撃ち尽くし、砲弾を補給する時間も惜しいほどだった。
しかし、我々の努力はすべて水泡に帰した。技術の圧倒的な差を職人芸で埋められるほど、神はこの世界を優しくお創りにならなかったからさ。
まさにすべてはむだごと。その言葉しか浮かんでこなかった。ミサイルは我々がいた対空機関砲座のある右舷側の煙突へ命中した。物凄い爆風と衝撃で私は機関砲座ごと海面へと放り投げられていた。幸い、私は落ちた場所が良かったのと救命胴衣のおかげで命を落とさずに済んだが、この通り左手の小指を喪った。しかし、その程度で済んだのは奇跡としか言いようがないね。
私のほかにも海面へ投げ出されていた人間がいましたが、私とともに対空機関砲座にいた連中を見つけることはできなかった。
シスター・サラには続けて艦尾や甲板にもミサイルが命中し、轟沈することはないにせよ、戦闘能力の喪失は明らかだった。後で記録を調べたが、艦長はギリギリまで艦を救う努力をしていたようだね」
「ええ、サラトガ艦長のアッカーマン大佐はハワイまで艦を曳航しようと努力されていたようです。残念ながら、最後は総員退艦と雷撃処分に同意せざるを得ませんでしたが」
「…漂流すること数時間、私は応急作業用の角材にしがみつきながら海上を漂っていた。硫黄島の近海は南方とはいえ12月だから海水の冷たさに何度も意識を失いかけた。結局、私は多くの将兵とともに日本軍の駆逐艦に救助されたのだ」
「アメリカ艦隊は日本軍の第二次攻撃を恐れて避退していましたからね」
「あの時の友軍に救助活動を要求するのは酷というものだよ。我々はボートに乗せられ、彼らの軍艦へ捕虜として連行された。私たちの世話を担当することになった若い日本軍の少尉は、綺麗な英語でハーグ陸戦条約等の捕虜取り扱いに関する国際法規を遵守する用意があること、そして怪我をしている兵士への治療を申し出た。日本軍の捕虜の取り扱いに関して、拷問や虐待の噂を信じ込んでいた私は拍子抜けする思いだったね。
結局、私にとってのあの戦争は、あの瞬間に終わった」
「…さて、グレッグさん。振り返ってみて、結局あの戦争はあなたにとって、どんなものでしたか」
「何って、いたって普通の戦争だよ。確かにあの戦争は
「日本軍や日本人に対して、今でも憎しみや嫌悪感はありますか」
「まったくないね。彼ら日本の軍人たちも、国家の名誉と国民の生命を守るために戦ったのだ。国際法を守って民間人に対する攻撃をせず、フェアにね。立場は違えど、我々と同じさ。あの当時、彼らに対し何ら負の感情を抱かなかったかと言われれば嘘になるが」
「グレッグさん、今日は貴重な時間をありがとうございました。以上NBNのサラ・アンドリュー・タケナカがレポートしました」
二度目の大東亜戦争 サイドストーリー 高宮零司 @rei-taka
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