ないものねだり

「私って、色気がないよね」

 いつものカフェのいつもの友だちとの語らいの時。遥香の突然の言葉に友人の美和と葵は顔を見合わせる。

「まぁ、そうよねぇ」

 あっさりと肯定する二人に、やっぱりと肩を落とす。

「あの年上彼氏となんかあったのぉ?」

 美和が尋ねる。

「いや。特に何もないのだけど。でも、このままでいいのかなぁって」 

 自分の小さくもないが決して大きくもない胸元を見つつため息をつく遥香。

「そうは言っても色気なんて、そうそう身につかないよねぇ」

「そうよね……あっ!」

 葵が大きな声をあげる。

「手っ取り早く色気が出せる方法あるかも!」

「本当に!?」


***


 その週末。

 雅明の家にお泊りに来た遥香は、脱衣場で鏡に映る自分の姿に赤面する。

(いや、これはいくらなんでも透け過ぎじゃない?)

 シャワーを浴びて着替えた遥香の格好は、白い透けた素材のベビードールと揃いの横で紐を結ぶタイプのショーツだ。


 手っ取り早く色気を出す方法として、友だち二人に言われセクシーな下着を身に着ける、を実行してみた遥香だが、これはどうなのだろうかと思い悩む。

 美和と葵がどピンクや赤色を勧めてきたのを、無理と言って白にしたが、これもあまり変わらない。目の毒というか何というか。遥香はこれを着た自分を直視出来なかった。

(これを見た雅明はどう思う?)

 あまりの攻めた姿に引かれないかが心配になる。

(やっぱり、いつもの部屋着で出よう)

 自分には、色気を出すなんて10年早かったのだ。ないものねだりはやめよう。遥香はそう思い着替えようと肩紐に手を掛けた、その時。

「遥香、すごく時間がかかってるけど大丈夫?」

 雅明が遠慮がちに扉を開けてきた。

 そして、目に入った遥香の格好を見て、しばらくそのままフリーズする。遥香も突然のことに動けない。

「……遥香。どうしたの、その格好」

「いや! 友だちに勧められて買ったんだけど、あんまり似合わないなぁって、今から着替えるからあともう少し待ってて」

 遥香は早口でそう言うと、雅明を脱衣場から追い出そうと手を伸ばすが、その腕を掴まれる。

「大丈夫。似合ってる。かわいいよ」

「いや、でも」

「部屋でもっとよく見せて?」

 すごく良い笑顔の雅明に腕を引かれ、遥香は何も言えず、そのまま格好で脱衣場を後にした。


***


 後日、雅明から友だちと一緒に行っておいでと、スイーツ食べ放題のチケットを貰った遥香だった。

 

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蜜桃のような愛を教えて 万之葉 文郁 @kaorufumi

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