10.TASK = "年齢入力フォーム" ;

「さぁて、始まりましたぁ!第一回飲み会〜!」

 定時後、新人メンバーの歓迎も込めて飲み会をすることになった。

 アレイのテンションがいつも以上に高い。

「ドク先輩、ノートPC持ってきちゃったんですか」

「あぁん、何で?持ってきたら何の問題ですか?」

 ドクは時折ちょっと変わった言葉遣いをする。ユーモラスといえばそうだが、マイブームか何かだろうか。

「いや、飲み会の場でまで仕事されるのかな、と思いまして」

「仕事?あぁ、彼女達の記憶奪還かね?」

「はい」

 ドクは説明を詳しく受けていないはずなのだが、スキルの実装ではなく記憶の奪還というプロジェクトであることを理解していた。ガイトはドクの推察能力と情報収集能力に脱帽した。

「それは一旦お休みだよもちろん。ワイとてサービス残業はしたくないしな」

「では、そのPCは一体?」

「あぁ、これは、ほい」

 ドクが画面を指差す。そこには平面ではあるがバーカウンターのようなイラストがあった。

「バーのCG、ですか?」

「半分正解だゾ」

 半分、と言われて疑問を持ちながらもう一度画面を見る。

 すると。

「あら、チーフじゃないか。お疲れさん」

「うぉ、ステファニー!?」

「そんなに驚くことではないと思うが」

 ステファニーの手にはドリンクのイラストが。

「こっち側でも色々できるって、ドクが教えてくれた」

 なるほど。

 ドクは満足気に画面を眺めている。

「チーフも楽しむといいさ」

「お、おう、ありがとう」

 プログラムに言われると不思議な感覚だ。

「そうっスよ先輩!今日はパーっと行きましょう!」

「あらまぁ出来あがっちゃって」

「まだまだ飲めますよー!」

 今にも酔い潰れそうな程に顔を真っ赤にしながら酒を片手に満面の笑みのアレイ。

 楽しそうで何よりだ。それ以上に気になるのは。

「ガイトさん、これ、美味しい!一口いかがですか?」

 先の会議室での一件から急に積極的に声をかけてくれるようになったりん。そして、

「ガイトくん、りんちゃんと随分仲良くなったのね〜」

「からかわないでくださいよ、りんが心を開いてくれたのは嬉しいです。でも仲間としてのラインはありますよ」

「『りん』ねぇ。まぁ何がとまでは言わないけれど、私としては年下よりもお姉さんにしておくのをお勧めするわよ?」

「いや、ですから……」

 まいが飲み会の少し前からずっとこの調子なのだ。

「まぁ良いけれど。……あら?りんちゃん、いつも持ってるタブレットはどうしたの?」

「カバンにしまってるわ。ダメなの?」

 どうやら心を許してくれたのはガイトにのみらしい。まいにはこれまで通りの強い当たりだ。

「ちょっと気になっただけよ。大事そうにしていたから」

「そ、そう……。あ、ありがと」

「ふふ、何よ、可愛いところもあるじゃない」

 ガイトの一抹の不安は杞憂に終わりそうだ。

「……そうね。ま、おばさんよりもりんの方が可愛いのは間違いないわ」

「は?」

「ガイトさん、隣いいですか?あの人、怖い……」

「お、おう?」

 前途多難なのは不変のようだ。

 

 飲み会後、やけを起こして飲みすぎたのか、すっかり酔いの回ったまいを介抱しながら最寄りの駅に着いた。他の面々とは各々の帰路へと別れた。りんはすぐさっきまで「放っておいても大丈夫ですよ、きっと」となかなか物騒な発言をし続けていたが、携帯を見て何か用事を思い出したのか、渋々と帰っていったところだ。

「んー。ん、どこ……?」

 皆と別れて少ししてからまいがようやく目を覚ました。

「駅です。帰りますよ」

「……や」

「嫌って言われても」

「やだやだ!まだ飲める!」

 普段は全く見せないまいの一面に少しだけドキリとする。

 駅の隅に顔を埋めて座り込んでしまった。

「先輩、まい先輩。立ってください、ほら、行きますよ」

「あと一軒だけぇ……」

「……」

 ガイトは時計を確認する。

「はぁ。一軒だけですよ」

 途端にパァッと明るくなるまい。

 近くによく行く店があるとかでグイグイと歩みを進める。

「それにしても不思議ですよね」

「不思議?」

「はい。ガールズSDKです。彼女達って一体どういう経緯で誕生したんでしょう?今でこそガールズ指向プログラミングなんてパラダイムがあるくらい一般的になっていますが」

「ガイトくん、仕事の話は」

「あ、そうですよね。すみません。りんがそのガールズSDK の仕様が入ったタブレットをあれほどまでに大事にしていたことが正直気になっていて。でも今日はもう忘れて飲みましょう」

「ガイトくんは、りんちゃんのこと、好きなの?」

「な、何を突然変なこと聞くんですか。そんなの……」

「そんなの?」

「い、いや、何でもないです。僕にだって黙秘権はあります」

「……私は、どうかな?」

「え……」

「な、なんてね!今日はたくさん飲みすぎちゃったみたいね!」

 慌てた様子で来た道を引き返すまい。

「先輩?どうしたんですか?」

 まいはガイトに背中を向けたまま、足を止めた。

「眠くなる前に帰らなきゃだね。今日は楽しかったわ。またやりましょう」

「え、あ、はい……?」

「それじゃ、私、帰るわね」

「あぁ、えと、分かりました」

 いきなりキャンセルになった二次会に戸惑いながらも、まいが帰るというならそれをガイトに止める理由はなかった。止められる気もしなかった。

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