第20話 ギルバート視点 風蝙蝠のピアス
ボクは魔石がしまってある戸棚の前に立った。右から火属性、土属性、風属性、水属性と種類ごとにわけて魔石をしまってある。
「どれにしようかな……」
ボクの独り言が部屋に響く。この部屋はボクのための部屋だ。誰もはいれないように魔法をかけてもらった。ぐちゃぐちゃになった気持ちを整理するためにボクは魔石を眺める。
――
どんな魔物でも倒してしまうくらい強い人だったのに、不意に襲ってきたレッドベアにやられたと聞く。ボク達が王立学院から転移装置を使って帰ってきた時には、もう、最期の祈りを終えたルシュディールが部屋の外にいた。こともあろうか、そいつは、次の晩、母さんと腕を組みながらボクの部屋にやってきて、「この箱を開けることができたら、ギルバート様が辺境伯です」と言いやがった。
母さんの期待の籠った目、意味ありげなルシュディールの口元。
ボクが開けられなかった時の母さんの驚愕した顔、ルシュディールの落胆。
いろいろ、思いだしただけでも腹が立つ。
―― なんで、みんな、
―― なんで、次の辺境伯にボクを担ぎ出そうとするんだ??
―― 辺境伯はジュリアンしかいないのに!
何かを作ることで自分の気持ちを整理しよう。ボクは戸棚の中から風蝙蝠の小さな魔石を2つ手にとった。
―― この風蝙蝠も
台座は金でと言ったのは
◇
「お前はジュリアンが好きなのか?」
ボクが執務室に入ってきたことを気配で知った
ジュリアンと父上は仲が悪いし、母さんたちはいがみ合っている。ボクはなんて言えば正解なんだろうと考える。
「お前がジュリアンにまとわりついているという噂を聞いたぞ。王立学院で、髪型が可愛いとか、似合う薔薇を見つけたとか必要以上にスキンシップをとってるという報告も受けている」
グシャっと
―― 怒ってる? 何故?
「それは……」
「お前があちこちの令嬢に手を出しているのは知っている。それは目をつぶろう。しかし、相手がジュリアンとなれば別だ。理由をきこうじゃないか」
ぎろりと緑の目がボクを睨みつける。嘘はつけないと直観的に思った。
「ジュリアンに、王立学院ではエリーゼ様の目はないからもっとジュリアンらしくいて欲しいと思っています。無理して男のふりをしていなくてもいいんだよって言いたいのですが、なかなか伝わらなくて……」
「それで? お前はジュリアンのことが好きなのか?」
「え?」
「だから、お前はジュリアンが好きなのかと聞いている。まどろっこしい言い訳はいらん。もし、お前がソフィアに言われてジュリアンに近づいているなら、これ以上手を出すな。次、近づいたら、お前の命はない」
「違います!!」
思わずボクは声を荒げた。
「ボクがジュリアンに近づいているのは母さんとは関係ない!! ボクの意志だ!!」
「ほお……」
「ならば、お前がもし、ソフィアとジュリアン、どちらかを選ばなくてはいけないとしたら、どちらを選ぶ?」
「ジュリアンです!」
ボクは即答した。確かに、母さんは大切だ。
「それを証明するものは?」
意地悪い声で
「ボクの命で証明します。血の契約でもなんでもします」
ボクは、
「もう一度聞く。お前はジュリアンのことが好きか?」
「はい。ランパデウムの地に誓って」
「ならば、もう一つ聞く。お前自身、次期辺境伯になりたいと思っているか?」
「全く思っていません。ジュリアンが正当な後継者です」
「ならば、お前は何になりたい?」
「
「ウォルター、聞いたか? 俺の見込み通りだった」
「私は信じません。血の契約をすることをお勧めします。グレン様は本当に身内には甘すぎます」
「っはっは。そう言うな」
「よし。ギルバート、お前のために、魔術具を研究する部屋を用意してやろう。お前以外入れないように扉に魔法をかけてやる。そのかわり、王立学院でのジュリアンの様子を逐一報告しろ」
「ジュリアンの様子を報告? ……、ジュリアンに直接聞けばいいじゃないですか……」
「…………もし、拒絶されたらと考えただけでも、俺は……」
ボクが
それから、
◇
机の上に緑色の伝書鳥が現れた。伝書鳥はボクが開発した魔術具で、届けたい人のところへ行くことが出来る魔術具だ。この伝書鳥は父上の護衛だったメービスに渡しているものだ。もし、ジュリアンに何かあったら、知らせて欲しいと頼んであった。
「ジュリアンサマ ヘンキョウハク ケッテイ」
―― そうか。ジュリアンはちゃんとあの箱を開けることができたんだ。
ボクは、涙をふいて立ち上がると、出来上がったばかりの風蝙蝠のピアスをポケットに入れて、部屋をあとにした。
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