第4話 999勝無敗の男、その名は弁慶

「我の生涯に負けはない…だから、行け義経、我に敗北を付けさせるな」

「すまん、弁慶」

 奥州平泉おうしゅうひらいずみ。季節は春だと言うのにピリピリした空気が森をおおう。

「すまんではない!!」

 弁慶の大声に振り返る義経。


「ありがとうだ、義経様」

 弁慶は笑った。

 義経は一礼をして走って行く。

「あぁ、ありがとう弁慶。君は私の半身だ」


「本当に…ありがとうございました。義経様…あなたが千人目で良かった」

 そして、愛刀岩融を振り回し、歌舞かぶく。


「我こそは、武蔵坊弁慶。999勝無敗の男である。我の生涯に膝を付けることのできることのできる方はただ一人のみ!!」

 その声は空気を響かせる。

「ふーーーーっ、かかってこんかあああい!!


「う…っ、うってぇえええい」

 泰衡やすひらかすれて裏返ったような声に、兵士たちが弓を放つ。

 しかし、そんな覇気のない号令により、士気が下がった兵の多くの弓はその弁慶の気迫に手元が狂いあらぬ方向へ飛んでいくが、多勢に無勢。

 いくつかの弓が弁慶に刺さっていく。


「ひっ、バケモンだぁ。あいつ…笑ってらぁ」

 何人かの兵が矢を受けても笑って立っている弁慶を逃げ出したという。 


 歴史が言う、義経、弁慶は頼朝に負けたと。

 

 しかし、彼らは生涯負けなかった。

 なぜなら、勝負で倒れることは無く、膝を付けることはなかったのだから。

 

 当時の人は言う、義経、弁慶が世の中を平定したと。彼らは宿願を達成したのだと。


 彼は勝ったまま、この世を去った。

 

 戦や闇討ちの返り討ちも合わせれば、数千の勝利を収めた男。

 しかし、あえて確かな数字で彼を語るとすれば、記録された決闘の数は生涯、999勝無敗のまま、勝負の場で膝をつくことはなく、勝利し続けた唯一の男。

 

 その名は―――武蔵坊弁慶!!



 

 ―――完―――

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999勝無敗の男、その名は弁慶 西東友一 @sanadayoshitune

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