#27 外套
カルヴァの意識が、浮かび上がる。
重たい瞼を必死に開けると、目に飛び込んできたのは見知った天井ではなく、雲一つない青空であった。
(ここは……? 海に落ちて……どうなった、あの夢は消せたのか……?)
疑問が浮かんでは、誰の答えもなく消えていく。
覚醒した意識と共に、身体中の確認作業。
魔力枯渇には陥っていない。
身体も動く。
熱もなさそうだ。
それなりに大きな怪我を負った筈だったが、身体を動かす事も出来そうだった。
カルヴァはゆっくりと両腕に力を入れ、上半身を起こす。
はらりと、上半身から脚の上に落ちたのは覚えのある外套。
父親の、外套だった。
(……!?)
周囲を確認するが、それらしき姿はない。
てっきり海なのかと思っていたが、カルヴァの横たわっていたのは砂浜でもなんでもなかった。
ただ真っ白な、空間。
自分に掛けられていた外套。
昔、父親の翻す外套の格好良さに見惚れたものだった。
身長が足りないから
裾を引き摺りながら回ろうとするカルヴァを、両親は笑って見ていた。
カルヴァが外套に触れると、父親の声が脳内に響いた。
ここがまだ夢の中だと云う事、カルヴァに万が一の事があった時に自分の魔力を受け渡して命を護れるよう、思い出の外套を夢に残した事、もう自分の護りはなくなってしまうから、二度と無茶はしないようにと。
父の声は、こんなにも優しかっただろうか。
母の声も、もしかしたら。
あぁ、それならば、ぼくは。
カルヴァの意識は、また、溶けていく。
空の、青に。
父親の、両の瞳に。
溶けて、いく。
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