#24 額縁

 塔の中は広い。

 ミミィはまだ行った事のない場所を、目的もなく彷徨い歩いていた。

 入ってはいけない場所は、前もってカルヴァに聞いてある。


 階段を数えきれない程に登って、足が疲れて来た頃だった。

 踊り場に、大きな肖像画が飾られていた。


 意匠の見事な額縁に入れられた、美しい女性の肖像画。

 誰に言われずともすぐに分かる。

 これが先代の、竜神なのだろうと。


 ミミィはその深紅の瞳を見つめた。

 つり上がった眉と切れ長の瞳のお陰で、かなり威圧感のある顔立ちをしているが、その瞳の奥は慈愛で満ちているように思われた。


 ミミィは絵画の中、膝の上に揃えて置かれた女性の手に、自分の指をそっと宛てがった。



「カルヴァさまは、偉いですよね。ひとりでずっと頑張って。だけど、もっと、他者を頼ってもいいですよね、竜神さま」



 絵の中の女性が微笑んだように見えたのは、気のせいだったのだろうか。

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