#16 無月

 今夜は、赤い月が昇る夜。

 窓から見えるはずの月が、見えなかった。


 厚い雲に覆われた暗い空。

 開けた窓から、突き刺すような風が吹き込んでくる。


 ミミィは胸騒ぎがした。

 どうにも落ち着かず、眠れなかった。

 暖かな布団もミミィの震えを止めてくれず、カルヴァにもらった栞を握りしめてみても、それは同じだった。


 窓の外の、その暗雲が原因なのかと。

 月が見えないからこんなにも不安になるのかと、ミミィは半ば無意識に窓を開けていたのだった。


 上階からは、微かに琴の音が聞こえている。


 今夜もカルヴァは、夢に潜っている。

 無月の夜でさえ、立ち止まっては死んでしまうとでもいうように。


 琴の音が止んだら、眠ろう。


 そうすれば幼いカルヴァに会えることを、ミミィは、確信していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る