#13 樹洞
素養があると分かってから、ミミィは塔の外で魔術の訓練をするようになった。
あまり魔力量が多い方ではないと言われたが、カルヴァに縁のある物を媒介に魔術を使うと、どうも共鳴して効果が高まるようだった。
どの属性にも平均的に才があったが、一番得意なのは炎の魔術であったので、そこを重点的に学ぶ事にした。
持ち出した魔術書を読みながら、ミミィは指の先に炎を出してみる。
コインより少し大きいくらいの炎は、ミミィの指を離れて動き出してしまった。
「えっ」
まるでミミィを導くように動く炎は、ふよふよと漂って、一本の樹の洞の前で弾けて消えた。
風が吹いて、周囲の木々が揺れる。
辛うじて枝にしがみついていた葉が、何枚も舞い散ってミミィの前髪を掠めた。
樹洞の中には光る粒が何個も転がっていた。
ミミィはそれを一つ、摘んで太陽に翳してみる。
紫色の小さな結晶は、キラキラと美しく、それでいて、肌に吸い付くような触り心地だった。
ミミィは結晶に鼻を近付けて匂いを嗅いでみる。
興味本位で舌を這わせると、驚くくらいに甘くて美味しかった。
「お砂糖?」
こんなに綺麗な砂糖があるのかと疑問に思いながら、ミミィは結晶を口に放り込んだ。
ころころと舌の上を転がる結晶は、どんどん小さくなっていく。
こんなに美味しくて綺麗な物は、大切に食べるべきだ。
ミミィはその結晶をカルヴァにもあげようと思ったが、何故だか、それをしては良くないような心持ちになった。
それに、樹洞に溜まった得体の知れない結晶など、勧めたら失礼かもしれない。
せめて、自分の体調に何も問題がない事が分かってから、美味しい物を見付けたのだと言うべきだ。
ミミィはそう結論付け、結晶を持ち帰るのをやめた。
魔術の訓練が上手く行った時、ご褒美としてこっそり食べようと、そう思うのだった。
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