#12 ふわふわ

 ミミィは最初にカルヴァの夢に入り込んでからも、度々夢に入ってしまう事があった。

 それは毎日ではなく、恐らくカルヴァが特に疲れた日の夜だった。

 琴の音に導かれて害意を浄化した後、疲れて眠ると、何故だかミミィがカルヴァの夢に引っ張られるようなのだった。


 原因は炎神にあるのだが、カルヴァにもミミィにも分からなかった。


 その日もミミィは夢に居た。

 大抵の場合ミミィは寝巻き姿で、裸足だった。

 その日もやはり、そうだった。


 白い、雲のような足元はふわふわで、ミミィが一歩一歩踏み出す度に足が沈む。

 歩きにくい地面に足を取られ、転んだミミィの身体はそのふわふわに飲み込まれ、そのままどんどんと落ちていく。


 落ちているのか、昇っているのか、浮いているのか、どこへ行くのか分からないままミミィは暫くの間、どこにも足が付いていない状態でいた。

 やっと何かに足の先が触れる。



「ボクの頭に乗るのはだぁれ」


「カルヴァさま!」


「ミミィさんか。重くはないけど、降りてくれたら嬉しいな」



 その日の夢の中では、上手く身体が動かせなかった。

 あっちへふわふわ、こっちへふわふわ。

 ミミィは一生懸命身体を動かして、なんとかカルヴァの前に立つ事ができた。

 そうしてカルヴァの顔を見たミミィは、思わず息を飲んだ。

 カルヴァの顔の半分程が漆黒の鱗に覆われていた。



「それ……」


「あぁ、気持ち悪いだろ? ようやく竜の姿になれるのかと思ったのに、どうにも上手くいかないんだ」


「かっこいいですよ、カルヴァさま! 赤い瞳と黒い鱗って、すごく似合うんですね。青い瞳と黒い鱗も、きっとかっこいいです。竜になれたら、見せてください」


「…………ミミィさんは大人のボクと知り合いなんだろ。そっちに見せてもらいなよ」


「カルヴァさまは見せてくれませんよ」


「じゃあボクも見せない!」


「そんなー!」



 少し、苦しそうだったカルヴァは今はくすくすと笑っている。

 ミミィは安心し、そして目が覚めた。


 現実世界のミミィとカルヴァは、あれから夢の話をしない。

 カルヴァがその話題になるのを避けているようだったので、ミミィから敢えて話す事もなかったのだ。


 お互いの記憶の中だけに、夢の世界は広がっていた。

 

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