おまけ セッション目標

11月19日 

どうやら、私達が住んでいるセカイには秘密があるらしい。

人間の心を揺さぶったり、記憶を消すような何かが。私は今まで薄々存在に気づいてきた。今年1年ずっと、そのことについて考えてきた。

友人が目の前で怪物に食べられても、助けてくれる勇者が私の学校にはいた。私は私の研究をしないといけない。


11月22日 

登山部の顧問が少しだけ教えてくれた。

どうやら、学校には常に結界が貼られており動ける人間は所謂素質的なものがあるとのことだ。

――素質?部員の半分近くが目覚めないこの現象のことだろうか?


11月24日 

あの日から、異常は起こらなくなった。

変態部に情報収集に行くと、どうやら全てが終わったらしい。

だが、終わったのなら終わっただけの立ち振舞が必要とのことだ。

確かに、明後日の登校日に校長が全校生徒を集める集会があるらしい。本来ならば黙祷なんだろうが、不自然にもマスコミ含めて消えた人間、死んだ人間のことは親ですら覚えていない。

いや、思い出せなくしてるのほうが正しいか。誰が本当の敵かわからない。対策はしておいて損はないだろう。


11月27日 

私は結局全校集会に行かなかった。変態部部長の提案だった。

それに、秘密を大いに握っているだろうミステリ部の鈴倉からも同様の提案を受けていた。

当時を知っていたラブライ部の人間はもう、あの悲惨な出来事は覚えていなかった。私の中で、少なくとも信用できる人間、所属はある程度はっきりした日だった。


12月1日 

部の様子がおかしい。黒金は連日変態部に付き添っている。

こうなると、黒魔術部なのか変態部なのかわからない。でも、無理もないと思う。あの日、全校集会に行った他の黒魔術部の人間は腑抜けてしまった。まるで何かに蓋をされているみたいに。

黒金が変態部方面にアプローチをかけている以上、自分も新しいアプローチをかける必要がある。

鏡崎というミステリ部の少年に相談したところ、登山部を教えてもらった。ミステリ部は油断はできないが、現状信用出来るソースだ。行くしかなかった。


12月4日 

登山部の最後の生き残りに話を聞くことが出来た。曰く、私には素質があるとのことだ。恐らく記憶の保持のことだと思う。

興味本位で黒魔術部というトンチキな場所に入部したとはいえ、知っていいことと悪いことがあるというのは、今日に至るまで体で知っていた。

何も知らずに忘れて学生生活を送ったほうが幸せなのだろう。

となると、変態部、そしてミステリ部は知っている側。当然、顧問の祓川先生やよく出入りしていた伊良原先生も知っているに違いない。

黒金の目的ははっきりしないが、少なくとも集会や授業には出ないほうがいいだろう。知っているからといって味方であるとまだ確定していない。そして、誰が知っているかわからないのだから。


12月10日 

綾波という生徒から接触があった。常に独り言をブツブツ言っていて正直黒魔術部より不気味ではあったが、有力な情報を手に入れることができた。

ミステリ部、そして登山部や黒金は神を討ち滅ぼし世界を救ったらしい。今時考えるのもバカらしい話ではあるが、事象に対しての結果として過去あった怪物はもう出現していない。信じる信じない以前に、納得をしてしまった。

話が本当だとするのならば、謎が残る。記憶を消去している面々がミステリ部主導なのか、登山部なのかだ。まず、変態部へアプローチをかけるのが重要だろう。

私が嗅ぎ回っていることを確実に知っていて、まだ中立だろうからだ。登山部が完全にシロとわかっていない状況で、もう頼れるのは変態部しかいなかった。


12月12日 

ミステリ部が急に続々と転校していった。頼れる仲間がまた1人、闇に葬られてしまったのだろうか。

ただ、わかるのは生徒会が以前より忙しくなり、ミステリ部が昔とは嘘のように静けさを取り戻したことだ。時折、戻ってきているようだが授業には出なくなった。

ミステリ部も危機を感じて先手を打ったのだろう。私には特段仲のいい、未練のあるような良い親には恵まれてこなかった。

私一人なら転校するのも楽だろう。ただ、転校をするのならば届を出さないといけない。その問題は置いておいて、いつでも逃げれるように準備だけは欠かさないでおこう。


12月15日 

雪が降った。時期的には普通の話だが、香川の雪城ともなれば話は別だ。

一時期降っていたこともあったが、香川だとここしか降っていない。スマホを見ると、どうやら雪城だけ雪が降っているようだ。こんなんじゃ日課のFGOすら出来やしない。

ふと、思った。私は今黒魔術部に所属している。一応形だけではあるが、こんなときに奇っ怪な行動を取っていたとしても違和感はない。ミステリ部に合法的に接触できるチャンスかもしれない。

そう思い、グラウンドで見よう見まねで魔法陣を書いたりしてみた。――案の定接触してきた。軽く聞いてきて少し離れて顧問と喋っていたが、やれ詠唱や精霊やと黒魔術部よりオカルトしている。敵ではないが味方でもなさそうだ。

ふと、空を見た。雪が降りしきる中、屋上に大きい影を見た。とても不吉な予感がしたのは、今思うと間違いじゃなかったのかもしれない。


12月21日 

木場が拐われた。本来攫われるのは古今東西、姫の伝統ではあるのだが、攫われたのは男のそれもいけ好かないやつだった。

あの日、屋上に大きい影を見たのはこいつだったのか……と車より大きい狼と相対して冷静に考えてしまっていた。

今更動物が喋るのは慣れたものだったが、その内容のほうが不思議だった。曰く、妖力の保管庫がほしいとのことだった。妖力がそもそもわからなかったが、私の未来が暗いものであるのは間違いなかった。それを、助けてくれたのが木場だった。木場は何やら交渉をしたと思うと襟首を咥えられ東の方へと消えていった。私と、変態部の部員だったはずの露は呆然と見守っていた。


12月26日 

クリスマスが終わり、私と露、そして四宮は学校から脱出した。木場を助ける為というのもあるが、私の親にも記憶操作を施されていることがわかったからだ。

朝起きると親は私のことを覚えていなかった。警察に呼ばれる前に寝間着のまま飛び出し、準備だけはしていた荷物を持って黒金を頼った。

黒金、というより登山部の手引で私の叔父さんという立ち位置の設定の人のもとに厄介になることになった。


1月1日 

あけましておめでとう。とはあまり言えないかもしれない。高校生の身分で出ると決めるまでなんとか働いてかき集めた全財産7万2000円、家出少女3人の身にはとても足りないものだと思い知った。

交通費は登山部が出してくれて辿り着くことはできたが、流石に生活の保証まではしてくれなかった。私達を助けてくれた私の叔父さん……伏菟野さんとは結局一度もあっていない。

生活の工面をする為もあるが、ほぼ他人の露や四宮とも仲良くならないといけない……。問題は山積みだ。


1月20日 

3人での生活はまあまあ順調だ。結局伏菟野さんとは一度も会うことは出来なかった。その間、届いたのは手紙だけだ。

内容としては、その家に帰ることはないから自由にしてくれていい。ただそれだけだった。

四宮とは割とすぐに打ち解けることが出来た。料理に対して何らかの効力を入れることが出来ると意気揚々と語っていたが、どうやら部室にあった調理器具を使うことで出来ていることらしい。

念の為、私達の食事にその調理器具は使わないでもらうことにした。

露はずっと引きこもっている。時間通りに料理をエレベーターに置くと、エレベーターが戻ってくる頃にはなくなっており、気づけば空になった皿だけが帰ってくる。よほどあの木場の野郎が好きだったんだろう。

私はといえば……、最近はずっと鱗の研究をしている。こそっと学校からくすねてきた、腰ほどの大きさのある鱗だが、私の脳を揺さぶるような気がしてならないのだ。


6月7日 

安定もしたおかげで日記を書くことが減ってしまった。生活も苦しいかと思ったが伏菟野さんが毎月生活に困らない程度送ってくれるおかげで贅沢は出来ないが存分にニートも出来てしまう。

街の周りがおかしい、と感じたのは最近のことだった。

この間、鱗に手を伸ばすと貫通することに気づいたのが始まりだったのかもしれない。まるで鏡写しに波打った海面のように、どこか別空間に行けるのだ。

私達は、化け物や神が跳梁跋扈するあの地獄を生き抜いてきたのだからこういうのもあるのかとなって驚きはあまりなかった。

どちらかというと、この別空間は見える人と見えない人がはっきりしているのがわかった。

私にはノイズのかかった色付き台風がふわふわとしているようにしか見えないが、四宮が言うには色付きの扉がそこら中に置いてあって幻覚だと思っていたらしい。露に至っては色付きのトラックに見えるらしい。自分から当たり屋をしたら身体がすり抜けるんだとか。

ふと、オンボロビルの屋上から景色を眺めていると真っ黒に蠢く竜巻のようなものが見えた。

今まで見てきたのは青系ばかりだったので、私達の目には不思議に写った。

見える種類で感想は、違うようだったが。


9月18日 

筋トレをして体力をつけ、物騒な用途にしか使うつもりのない金属バットなどを買い揃え、3人で別空間に入ってみることにした。

鱗の中は結構なホラーショッキングだった為、優しそうな青色の空間に入ってみた。中に入るとしきりに横浜市民と名乗る座間市と書かれた漢字そのものが、だべだべじゃんとワギャンランドさながらの文字を飛ばしてくる異質な空間だった。

身体が軽くなっている感覚はあったがべの先端が落ちた衝撃で吹き飛ばされ、背骨が折れたような感覚がした。

肋骨が折れると息って熱くなるんだ、と他人事のように感じていた。

気づけば四宮に抱えられ逃げるように空間から脱出したが、木場を助けるにはなんとかしないといけない。オカルトをもっと勉強しなければ……


12月23日 

病室での生活は暇としか言いようがなかった。

車に轢かれたような怪我をしているのになんで救急車を呼ばなかったのかと主治医に散々詰められてしまったが、言えるはずもなかった。

ある意味わかっていたことだが、病室は暇でしかない。ただただ生かされているだけで人間としての尊厳をじわじわと削られているような気分になるからだ。

現代の文明の利器を使い、オカルトを調べている途中。私はある出会いをした。

柏木ヒナというVtuberだ。

以前からオカルト板では話題にはなっていたが、いざ見ると一目でわかった。あれは、地獄の学生時代に私を助けてくれたミステリ部だ。ミステリ部の言うことならばどんな荒唐無稽な話でも信用に値する。彼女は私のことを知ってはいないだろうが、私は彼女のことをとても良く知っているからだ。

ミステリ部がいなければそもそも退屈な病室生活以前の話になっていたのは間違いない。1月近く連絡を取っていなかった四宮と七歌を勢いで呼び出し、柏木ヒナを見るのが日常になった。思い出話の中で、私は七歌ともっと仲良くなれた気がした。


2月9日 

ようやく骨折が落ち着き、今度こそビルの屋上から見えた竜巻のようなものに近づいてみないか?と四宮と七歌に相談をしてみた。

彼女たちも出会った頃とはぜんぜん違うくらいに鍛え、四宮に至っては少しお腹が割れているほどだ。

いくら準備をしても武装するより逃げる準備を整えたほうがいいと思い、3人でバイトをして防弾チョッキを人数分購入した。

1つあたり15万円もするとは思わなかったが、装備の値段は命の値段と山登りの人も言っていたので少なくとも私の命には15万の価値があるんだと自尊心の為に買ったと自らを納得させた。

その場所は厚木市の山中にあった。

かなり大きく明らかに真っ黒な竜巻が轟々と鳴り響かせているのに、周りの木々は一切薙ぎ倒されておらず見た目とは裏腹に風も一切感じなかった。少し腕を伸ばすと体が引きずり込まれるように入っていくのを四宮と七歌が必死で止めてくれた。

木に命綱のようにロープを体に括り付け、入ってみることにした。私は、危険だとわかっていながらやめることが出来なかった。好奇心に負けたのだ。

あの時、非日常の体験を、地獄のような日々を生き抜いてきた自負があった。

私はあの頃の非日常感を忘れられなかったのかもしれない。命の危険がありながら日常を過ごす非日常が、私の青春だったからかもしれない。

それは間違いだった。

ミステリ部がいなければ蹂躙されるだけなのを頭ではわかっていた。

でも、どこか自分達にも誰かを救えるようなヒーローで特別な力があると思いこんでしまっていたのかもしれない。だって、私は生き残ったのだから。

結果としては私はまた病室でこの日記を書いている。隣には七歌も一緒だ。

入った瞬間、なにか見えないものに斬り裂かれた。自分の骨というものを初めて直視した。

私は人間なんだなあとどこか非日常を感じている途中、隣で七歌の目に腕が入っていた。サザエをくり抜くかのように七歌の目はいとも簡単にえぐられ、私達の逆らう気力と心は見る間に打ち砕かれてしまった。

四宮が、ここは私に任せて逃げろって言ってくれたのを皮切りに命綱を伝って息もだえだえで逃げ出した。

押し問答などなかった。

自分の命が助かるためには友人だって私は見捨てたのだ。仕方がなかった。私は悪くない。私だって四宮を見捨てるつもりはなかった。仕方なかったんだ……


5月5日 

世間はゴールデンウィークの真っ最中だ。ダイヤモンドプリンセス号がどうのこうのでテレビは連日荒れているが私にはあまり関係はなかった。

まだ2月の出来事を引きずっているからだ。治療と心のケアで1クールなどほんとすぐなんだなと実感した。

四宮を見捨て、七歌の目を犠牲にして私は何故生きているのだろうか。

私は所詮骨だ。ただ、七歌は二度と戻ることはないのだ。四宮も生きてる保証なんてない。ここは俺に任せてなんて死亡フラグのオンパレードではないか。

私は何故生きているのか。わからないまま時間だけが過ぎていた。

入院費用やリハビリの代金を嫌な顔せず払ってくれる伏菟野さんには感謝しないといけない。あの人がいなければ私は無職で治療費も払えずただただ野垂れ死んでいくばかりだ。金は大事だ。

現実の足取りはかなり重く、苦しい。あの晴れやかなヒナちゃんのように動ければ心も軽くなったのだろうか。今はもうわからない。

あの日、生き残ったのは幸運ではなく悪運だったのかもしれない。勇敢なやつから死んでいくなどと言うが、実際は運のないやつから死ぬのだ。

私は生き残る運はあった。それ以外はなにもない。

市姫のように強ければ、私は英雄のように四宮を助けることが出来たのだろうか。英雄のように強ければ、私は今無力感に打ち拉がれることもなかったのだろうか。

あれから、七歌とは1度も会えていない。先に退院して戻ってきてはいるのだが、エレベーターの入り口に指定の時間に食事を置いて入ってくるなと念押しの張り紙がされてあった。

食事くらいで贖罪になるのならばなんだってしよう。

私にだって軽食くらいは作れる、はずなのだ。

せめて面と向かって糾弾されていればこの心も楽になっているのに……


5月20日 

思い切って私は伏菟野さんに相談に会いに行くことにした。

本当なら何か疑うべきことだったが、自分が思ってたより参っていたのと伏菟野さん側から自分と会わないか?と手紙で打診されたことが行くことを決める理由だった。

でも、本当はそれだけが理由じゃなかった。伏菟野さんは、手紙にこう書いていたのだ。

「強くなる方法が知りたいか?怪異は利することが出来るものだ」

そんなことを言われたら、そんなことを知ってしまったら私には抗いようのない魅力だった。私は力を求めていた。小説や漫画の主人公のように、守ることの出来る強さをなんてかっこいいことは言えないが、私は私が後悔しない為の技術と知識を求めていた。

オカルトでも何でも良かった。なんで伏菟野さんがそんなことを知っているかなんて、今思うと考えすらしなかった。

私はすぐに返事を書き、自転車で20分かけて郵便ポストに投函した。この付近に郵便局がないのは知っていたので、横浜市まで行くつもりで進んでいたが途中に郵便ポストがあって助かった。やっぱり自分には体力がない。それをただ実感させる道のりだった。

どういうことだかわからないが、昼に投函したはずの手紙の返事が夕方には届いていた。集合場所は今日の晩、近くの廃屋だそうだ。

私は怖かった。会ったこともない人に相談するのはもちろん、夜に1人で出歩いて男の人に会うということそのものも初めてだったし本当に教えてくれるかもわからない。ただ私のことを年明けから狙っていたのかもしれない。

でも、生活費を今まで支払ってくれたのは事実だし私にはそれを盾に脅されでもしたら素直に首を縦にふることしか出来ないな、とも感じていた。

念の為にシャワーも浴びたけど、もう本当にこの時の私はどうかしていたのかもしれない。完全に血迷っていたと今なら書くことが出来る。予定時間の20分も前にそわそわしながら待っていたあの時の私はさながらデート前の浮かれた少女と何も変わっていなかっただろう。

伏菟野さんは私の想像していたよりもおじさんだった。というより、もうおじいさんが近いかもしれなかった。風体もがっしりとしていて、とても60を超えているとは私には思えなかった。

会うなりすぐ、私には半端に適性があるから余計な苦労をしてしまったんだろうねと言ってくれた。世の中には自分のように君たちよりも霊感のある人がいるので、それをなんとかして見つけるのがいいと教えてくれた。

コロナウイルスでお客さんなどほとんど来ないだろうが、喫茶店を開いてみるといい。なんてことを言ってきた。私に料理なんて出来ませんよ、と言っても珈琲だけを出せばいい。豆も機材も私が用意するからと言って譲ってくれなかった。

なんで私にそんなことを強要するんですか?と聞くと、「信じてもらえないかもしれないが、僕の友人に未来を知ることが出来る人がいてね。キミが喫茶店を開くことが何よりも大事だと言っていたんだ」と、珍しく朗らかな顔で笑っていた。

元より、伏菟野さんに何か要求されても私に拒否権などないと思っていたので出来るかはわからないですが、と言って提案を受け入れた。

最後に、年頃の娘さんがこんな時間に男の人に呼び出されても来てはいけないよと釘を刺されてしまった。いい人だとは思うが、余計なお世話だなと思った。

何もわからないけど、取り敢えずは喫茶店の雰囲気を出す為に何が必要か調べないといけない。私は形から入って今までなんとかしてきたんだ。今回もなんとかなると思う。そう私を意味もなく信じていた。


8月1日 

喫茶店をオープンさせた。

七歌には迷惑をかけられないので、喫茶店を開くというのを書いた紙を毎食の食事に紛れ込ませた。返事は来なかったが、紙は消えていたので伝わってはいると思う。

あの日から七歌とは会話もしていないが、七歌には七歌なりに何かやることがあるのだろう。時折聞こえてくる地響きのような音から察することが出来た。

七歌には七歌の。私には私のやることがある。それが喫茶店だ。

なんとか家財道具を揃え、珈琲の淹れ方を覚え、店としての体裁は保つことが出来た。客はこのご時世だ。来ないかもしれないが、あまり繁盛しても困る。

私のワンオペで、接客も初めてなのだ。

あれから1度だけ伏菟野さんと会った。伏菟野さんが言うには、喫茶店を開くといったのは僕だが、何か目的があるといいだろう。

とのことだったので、ずっと研究していた鱗を店のド真ん中に置くことにした。

危ないとは思ったのだが、私は伏菟野さんがあの時言っていた「適性」という言葉が忘れられないでいた。客が来たらわかることだろう。

辺鄙な住宅街のド真ん中で、ひっそりとオープンさせた喫茶店に客が来るのだろうか?不安が少し、生活の彩りが出来るかもという期待が少しだ。


10月3日 

数は少ないが常連さんも来るようになった。適度に鱗に対して目が行くように手品として見せてはいるが、どの人も鱗が見えることはなかった。

私はやはり少しは選ばれていた人間だったのだろう。選民意識が少しあるような気もするが、この程度の選民で区別されるのならば私はないほうが良かった。

七歌とも少しは会話することが出来た。どことなく厨二病を患っている感じにはなったが、本人曰く神秘に近づくなら自分も神秘に近づく必要があるらしい。

別にその意見を悪いとは思わないのだが、ガッサ先輩だのテクニ先輩だのほうし先輩だの……。

ああいったあだ名で呼ばれるのは少し気恥ずかしく出来たらやめて欲しい。

七歌ともある程度和解し、協力者を探すことにした。なんとか四宮の死体だけでも見つけて供養してあげたい。そのためにこの喫茶店はあるのだろう。

この、「星を見る」は何時の日か私以外の人の目に語られる日が来るのだろうか。いや、来てくれないと困る。私は、その為に慣れない喫茶店を経営しているのだから。

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