弓道着のキミ

弓道場の中へ案内された。

「じゃぁ、ここ座ってて。」

そう言うとキミは奥にある部屋へ入って行った。まだ誰も来ていない。僕は一人、ひんやりするフローリングの床に腰をおろした。なんだか分からないが、とりあえず正座をした。

「…。」

並木さんが2人いた。僕の頭はそのことばかりだった。疲れていて、幻影を見たのかもしれない。ポケットから先ほどのハンカチを取り出した。

「…。」

やっぱり幻影なんかじゃない。じゃあ、あれはいったい…。

「チュンチュンッ。」

弓道場の端っこに、すずめが2羽飛んできた。ちょこちょこ動いている。その向こうには芝生が広がり、太陽の光にやさしく照らされている。そしてずっと向こうには的が並んでいる。あんな所まで、本当に矢が届くのだろうか。

「おまたせ!」

ぼんやりしていると、髪を後ろで一つに束ね、弓道着を着た人が出てきた。それがキミだと分かるまでに、数秒かかった。さっきと全然印象が違う。

「…それっぽいでしょ。フフッ。」

少し照れくさそうに、キミが笑った。結構似合っている。

「あっ!見学?」

すると、他の部員たちが続々と入ってきた。

「1年生?」

「2年です。転校してきて…」

「そうなんだ!ゆっくり見て行ってね!」

見慣れない僕に、みんな興味津々だ。それにしても、さっきから女子ばっかり。

「あの、男子部員って…」

「あぁ、えーと。いない!」

キミはキッパリと答えた。

「えっ…」

「こっちはウェルカムなんだけどね…なかなか入ってくれなくて。0人だと入りにくいよね、そりゃ。」

キミは明るく笑い飛ばした。

「…。」

「あっ!また背中が丸くなってる!」

そう言って、背中をポンッと叩いた。

「まぁ、一度見てみて。良かったら是非、入部してほしい!以上!」

相変わらずキミは距離が近い。僕は記念すべき男子部員一人目にされようとしている。この人の強引さをあなどってはいけない。なんとか断る方法はないか、思考を巡らせた。




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キミが放つ パルーラ @palpal66w

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