さなぎの季節

雨世界

1 自分から行動しなくちゃ、なにも変わらないよ。きっとね。(と、あの人は僕にいった)

 さなぎの季節


 登場人物


 立石さなぎ 十五歳 中学校にいっていない少年


 野原三つ葉 十八歳 凪のお姉ちゃんに似ている人


 空を泳ぐ魚 大泥棒 街をにぎわせている正義の泥棒。大都市の悪い噂の絶えない一部の富裕層や、あるいは闇の組織専門に盗みを繰り返す正義の怪盗。盗んだお金はよく街中にばらまいたりしている。人気がある。正体は不明。


 プロローグ


 勇気を持って、一歩を踏み出す。


 本編


 君は悪い大人にはならないでね。


 自分から行動しなくちゃ、なにも変わらないよ。きっとね。(と、あの人は僕にいった)


 立石さなぎがその人に出会ったのは本当に偶然のことだった。

 いつものように、ふらふらとあてもなく街を歩いていた凪は、その人とすれ違った瞬間、強い運命のようなものを感じた。

 ……似ている。とても。本当によく似ている。

 さなぎは足を止めて後ろを振り返ってみた。

 もう消えてしまっているかもしれない。

 今見たあの人は僕の見たただの幻想なのかもしれない。(あるいは、今が僕の見ている夢の中なのかもしれない)

 そう思ってさなぎが振り返ると、その人は街の風景のどこかに滲むようにして、消えてしまったりはしていなくて、ちゃんとした、しっかりとした輪郭と形を持って、あの人に似ている人は、まだ確かにその場所に立っていた。

 その人はじっと大きなビルに設置されている巨大なディスプレイを眺めていた。そのディスプレイにはニュースの速報が流れていて、最近街をにぎわせている正義の大泥棒、『空を泳ぐ魚』のニュースが写っていた。

 その人の横顔はあの人に、……いなくなったさなぎのお姉ちゃんの横顔に本当にそっくりだった。

 だから、今度こそ、……お姉ちゃんがいなくなてしまう前に、さなぎはその人に声をかけなければいけないと思った。


「あ、あの、すみません」

 そう思って、さなぎはお姉ちゃんい似ているその人に、……野原三つ葉にそう声をかけた。

「え? ……あれ、私?」

 自分に声をかけてきたさなぎを見て、きょろきょろと周囲の様子を観察しながら三つ葉はいう。

「はい。そうです。突然、すみません。えっと……」

 とさなぎは自分が三つ葉に声をかけた理由を話そうとして言葉に詰まってしまった。

 なんて説明したらいいのか。とっさにさなぎにはわからなかった。

「あれ、もしかしてナンパ? 君、おとなしい顔してるのに、ナンパとかするんだね」へーと言う感心したような顔をして三つ葉はいった。

「あ、いや、違います。えっと僕は……」

 とさなぎが事情を説明しようとすると、三つ葉は「わかった。いいよ。『その勇気』に免じて普段なら絶対についていったりしないんだけど、君の誘いに乗ってあげる。あ、でもちゃんと食事はおごってよね。君のおごり。ね、それくらいはいいよね?」

とさなぎにウインクしてから、さなぎの手をとって街の中を歩き始めた。

 その行動や言動が、あまりにもお姉ちゃんとそっくりだったから、さなぎはなんだか思わず、その場所で少しだけ、泣き出しそうな気持ちになった。

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