エピローグ
初出勤があまりにもつらかったので、大家さんにはやめるかい?と聞かれた。
「いや、もう少し続けてみます」
なんでそんなことを言ってしまったのだろう。あれが最初で最大のチャンスだったのに。
これは社畜根性というやつなのだろうか。
あれから二年がたった。収入はそれなりになったし、あちらで交友もできた。レベルもあがったし、戦い方も上達した。見はあげにくいのでやっと4だが、おかげで無理な相手は無理とわかるようになった。
そしてあのぽっとんトイレには慣れた。慣れざるを得なかった。ただ、こっちから持ち込んだ紙を使ってる分、ましではあったが。
二回目の出勤からわかったことだが、あちらとこちらで時間の進み方、一日の長さは同じで、17時に退勤して9時に出勤したらあちらでもそれだけ時間が進んでいるのだ。(そのときはあやうく死にそうになったが、ここでは省く)
魔王側に通いの勇者のことが知られると、やつらは活動を夜に絞って、昼は隠れるようになった。退勤した場所に出勤するので、それもばれると大変やばい。
一度は人間側の裏切り者にちくられ、出勤してみたらもうなんかいろいろ手ぐすね引いてまってたこともあった。このときもヒットポイントがほとんど削れた。
そして一番きつかったのが、味方のはずの人間たちの圧。
退勤なんかするな、残業しろ。サービス残業しろ、ずっといろ。
そんなことを言葉と視線と陰口で圧力にしてくるのだ。
ハーレム? 無理無理。
むしろ魔王側からすごい好条件で勧誘されたくらいだ。
懲罰部隊を暴れさせるのでそれを狩ってるだけでいいんじゃないかとか。放置すれば被害がでるので少しでも実績になる。
正直、ぐらついた。
この時は、魔王側にもとんちきなやつがいて、おかげで話は一度流れたんだが、もう一回誘われたら飛びつく自信しかない。
結局、休みのいれかたを使って変則勤務をすることで対応した。
魔王側が想定しない時間に、人目も盗んで出勤し、安全に稼げる実績を稼げるだけ稼いで誰もこない場所で退勤する。一年経過し、見が3レベルになると魔王側の全体的な動きが見えるようになったので効果的に実績稼ぎ、つまり嫌がらせができるようになった。
ヒットポイントはそのころ5になっていて、アシスタントもだいぶ賢くなってきた。それでわかったんだが、分身だけあってだんだんあの駄女神に似てきたんだ。
それで聞いてみた。
「なんで俺をだったんだろうね」
やつはうふ、と笑った。
「さらうなら社畜って、神々の間では常識よ」
「どういうことだ」
「どんなにきつくっても今の生活よりましだからってがんばってくれるからね」
得意顔でゲロってしまうところが本体そっくりだ。
「いっそこっちに移住しちゃわない? 待遇がらっとかわるわよ。女たちだって優良物件だから言い寄ってきてよりどりみどりだし」
ごめん、あちらの女性は化粧と香水がどぎついか、いかにも不潔なのしかいないのでごめんなんだ。石鹸を持ち込んでみたけど、誰かが死ぬ結果になったりしてうんざりだ。駄女神の警告は当たってた。
「ライフプラン、たてようか」
大家さんに提案された。
「どこまで稼いだらやめるってのを計画して、そのあとはこっちで悠々自適にくらしてくれればいい。ゴールが見えたほうが頑張れるだろう」
収入予想曲線を一緒に作って年限を切る。十年くらいだ。
「やめるときには後継者をさがして引き継いでもらったほうがいいな」
「なんで? 」
「やめてしまうとあの女神、また誰かひき殺しにかかるから」
できたらOJTできるといいな。
☆2020/11/22 エピローグを修正。(読み返すと投げやりすぎる)
異世界転生未遂から始まった冒険 @HighTaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます