第8話 あとがきに変えて・・・おばちゃんの気持ち
テレビを見ていたら、画面に大きく映し出されたおばあちゃんが、ゆっくりと話し始めました。
「私はね、本当に大勢の人に意地悪をされたの。そのたびに辛くて苦しくて、『みんな死んじゃえ。』って思っていたのよ。そしたらね、そういう意地悪な人たちは本当にいつの間にか死んじゃった。」
いつの間にか死んじゃったのではなく、呪い殺したわけでもなく、このおばあちゃんが大層長生きなのです。あとどのくらい、幸せな時を生きられるか分からないお年寄りが、長きにわたり人間関係に苦しめられたとは思えない、柔らかな表情でそんなことを語り、そして今はとても幸せであると言います。今が幸せだと過去の苦しさは帳消しになるんだろうか、おばちゃんには想像がつきません。むしろ辛い時間が長いと、時折訪れる幸せを「どうせ長く続かない」と疑ってしまい、満喫できないような気がするのです。
でも、確かにいつの間にかおばちゃんも幸せに過ごせる時間が長くなってきました。そして、苦しい時間が長かった分、今の幸せが少しでも長く続くように努力をするようになったのです。習い事を続けたかったら、仕事も頑張る、大切な人が離れていかないように自分を磨く。もちろん、人に優しく。
おばちゃんは、ずっとパワハラン達が不幸になればいいと思っていました。状況を正しく理解してくれる第三者の存在があれば、処罰を免れないような案件もたくさんあるのです。ただ、処罰されたところで本当に自分の心が晴れて、安全な環境を確保できるのかと考えるといつまでも答えは出ませんでした。
「ハラスメントをして申し訳ありませんでした。二度としません。」と謝罪してもらったとしても、翌日から仲良しになれるわけではないし、そんなことを望んでいるわけではありません。本来は加害者が罰を受け、被害者が何かを失うことなく、平穏に今まで通りの生活を続けられることが理想です。でも、その環境が保証されない以上、逃げるのも立派な一つの選択肢だと思うのです。
何が正しいのか、それは人それぞれが決めることです。会社にとって、おばちゃんを辞めさせるために嫌がらせをし続けることが正義でした。それは間違っているといくら訴えかけたところで揺るぎのない志は変わらないのです。おばちゃんに辞めて欲しい会社と嫌がらせをされたくないおばちゃん。おばちゃんが逃げさえすればウィンウィンです。両者にとってめでたしめでたしな結末です。もちろん、会社がおばちゃんの去ったあと、次のターゲットを探していないと仮定しての話ですが。
パワハランからの攻撃を受けながら、時折テレビで伝えられるいじめのニュースに心を痛めていました。耐え切れずに自分の人生にピリオドを打つ選択をした中学生。周囲の大人たちはどのように感じているのでしょう。学校はあと1年だから、我慢すればもうすぐ卒業していじめる人とも別れられる、そんな軽率な発言をする人がいたのではないか、想像と自分の現実を行ったり来たりして、さらに心が苦しくなります。自分がされたからおばちゃんには分かるのです。会社のいじめは確かに学校のいじめより期間が長く果てしない物です。でも短ければいいというものでもありません。将来の有る子供たちが心に傷を負って大きくなる、大きくなることすら諦めてしまう、決してあってはならないことです。
窓際おばちゃんは逃げました。逃げて幸せを手に入れました。そして、知らず知らずのうちに会社を倒産に追いやりました。現実のおばちゃんは実のところ、逃げも隠れもしていません。一方的に攻撃を受け続けています。その中で、人の良し悪しや良識を学んでいます。もちろん、いつか逃げようと思って少しずつ準備もしています。時に、ハラスメントに耐え切れず、激しく苦しむことがありますが、それをどうやって読んでくださる皆様に面白おかしく伝えようかと思いあぐねていると、不思議なことに敵が全員キャラクターになってしまうのです。
私自身が窓際おばちゃんに救われた一人。皆さんもそれぞれの窮地から逃れ、少しでも多くの幸せを手にすることができますように。最後まで読んでくださってありがとうございました。
教訓:逃げるが勝ち
窓際おばちゃんと妖怪パワハラン 穂高 萌黄 @moegihodaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます