★部屋と半月と私
窓際の椅子に座って、一人ワイングラスに口付ける。
空には半月。周りの空を柔らかに照らしている。
「この月はこれから満ちるのかな? 欠けるのかな?」
私は独り言ちる。
朝きれいに整えたシーツは乱れ、先ほどまであった温もりは失われていた。
ふいに涙が頬を伝った。
真夜中に一人を寂しく思うならこんな関係などやめてしまえばいいのに。
わかっている。わかっているのにいつも別れを切り出せない。
空にかかっている半月のように、どちらに転ぶかわからないのならいいのに。
彼は家庭を捨てるつもりはきっとない。
「月だけね。真夜中に相手してくれるのは」
私は泣きながら微笑みを浮かべてまたワインを飲む。
一緒にいるときに甘かったそれは今はなんだか渋く感じられた。
あの人の口づけが好き。優しい愛撫が好き。行為の時の切ない瞳が好き。
優しい嘘ばかりつくあの人が私はこんなにも好き。
溺れる予定ではなかった。
なのに今私はあの人の温もりから抜け出すことができない。
今年28歳になった。
そろそろまともな恋愛をしなければ。
「あなたに誓うわ。次は別れを切り出すと」
私は月に向かってワイングラスを一度上げて、残ったワインを飲みほした。
了
恋心集めました(恋愛短編集) 天音 花香 @hanaka-amane
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