彼女はレディ

 レディは魔女の家系に生まれた。


上に姉が二人いたが、魔女としての素質が最も高かったのはレディであった。


レディは自由が好きだった。


何かに縛られることは、酷く屈辱的だった。


しかし家には決まり事が多く、レディは日々の暮らしがとても窮屈だった。


身にまとう服の色や、出かけてよい範囲などを指定されるのをはじめ、日常の挙動は逐一監視されるのだ。


レディにとっての自由は、与えられた部屋の中だけであった。


仕舞いには、婚約者なんてものまで用意されてしまった。


たまったものではない。




そこでレディは、とっても素敵な計画を思いついた。


そして満月の今夜、それを実行に移したのだ。


誰にも行く先を告げずに、家を飛び出してやったのだ。


つまり家出だ。


あらかじめ用意していた逃亡先のアパートの一室で、じっと息をひそめて朝を待つ。


追手の気配はなかった。


こんなにうまくいくとは、正直予想外であった。


あえて見逃されているのかもと、思いもした。


罠か、それとも本当に上手く逃げ出せたのか。


どちらにせよ、レディは家に戻る気はなかった。


初めの数日は、怖くて部屋から出ることができなかった。


黒猫を抱きしめて、眠れぬ夜をいくつか過ごした。


日が経つにつれ、緊張は和らぎ、警戒も溶けていった。


レディは、自分の魔女としての能力が知らぬ間に上がっていて、家の者は誰も追えなかったし、今も見つけることができないでいるのではないかと思うようになった。


そうして家を飛び出してから八日目の朝。


居は移すつもりであったが、動くことで見つかるリスクを恐れて、結局そのまま留まることにした。


陣を張り、レディは自分だけの異空間としてアパートの一室を切り取った。


レディは自由を勝ち得たのだ。




けれど、レディは時々思うのだ。


なんの相談もなく、連れてきてしまった黒猫。


あいつの自由は、自分が奪ってしまったのではないのかと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私たちは繭の中 (仮) hayaseRyou @hayaseRyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る