魔女の黒猫

 私にとってのヒーローは、真っ赤なレディ。


貴女だけ。


あの時、声をかけてくれた。


膝を折って、視線を合わせてくれた。


戸惑いがちに、その手を伸ばした。


『赤』を纏った貴女だけ。




貴女は私に


「魔女になるのよ。」


そう言った。


だから私は魔女になる。




魔女には黒猫がつきものだ。


魔女の黒猫は、生涯において一匹だけ。


魔女と黒猫は、苦楽と寿命を共にする。 


魔女にとって黒猫は、自らの半身と呼べるもの。




レディの連れてる黒猫に興味がわいて、色んなことを質問した。


レディは惜しまず、多くのことを教えてくれた。


それらを聞いて、魔女と黒猫の絆に憧れた。


私もいつか、自分の黒猫に出会えるのだと。


そう強く、信じていた。




レディの黒猫はKという。


アルファベット一文字で、『ケイ』と。


Kはいつも人の姿をとっている。


真っ赤なレディとは対照的に、黒いスーツをパリッと着こなして。


黒猫は力を持つと、人化もできるようになるらしい。


便利なものだ。




いつか、私の黒猫も。


そんな期待を裏切って。


思い出した幼い記憶。


私の黒猫は、現れない。


どんなに待っても、現れない。


無知な私があの子を殺した。


私の半身だったのに。




黒猫のことをすっかり忘れて。


私は孤独の中にいた。


上手く、馴染めなかっただけ。


その輪の中に、入れなかった。


恐ろしかった。


全てのことが。


私に対する敵意に見えて……。




鮮やかな、赤を纏って。


レディ。


貴女は現れた。


「恐れることは何もない。


前を向いて。


まっすぐに。


孤独であることは『悪』じゃない。


怯えないで。


私がいる。」


真っ赤な唇を笑みの形にかたどって。


レディは私の横に立った。


「孤独を愛しなさい。


普通である必要なんて、どこにもないの。


みんなと同じに、足並み揃えて歩く必要も。


あなたの見ているその世界は、ひどく小さな鳥籠よ。


世界はもっと、広いのだから。」


だからね、レディ。


「さぁ!


あなたにはとっても素晴らしい才能があるわ。


私のところへいらっしゃい。」


貴女に私、ついていく。


ずっと、私ついていく。

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