変なもの

 あたしのおかーさんは、あたしのことが嫌いだった。


与えられたのは、鋭い言葉と温度のない眼差し。


あたしは『不気味』で『不吉』なんだって。


おかーさんは私を指してそう言った。


それはきっと、この目のせい。


変なのが見える、この目のせい。


目をとっちゃえばよかったのかな。


でも、痛いのこわくてできなかった。


それに変なのは、変なだけで、優しいの。


あたしの大事なおともだち。


がっこうで、おともだちはできなかった。


ひそひそと、遠くでみんな、話してる。




「おい、お前。」


大きな男の人が、目の前に立っていた。


周りは皆黒い服で、あたしのことでもめていた。


あたしは少し離れて、変なのと一緒に曇り空を眺めていた。


ちゃんと、黙って大人しくしてたのに、怒られるんだろうか。


「ソレ、お前のか?」


男の人は変なのを指さしてそう言った。


私はびっくりした。


大きく心臓がバクバクいって、肌がぞわぞわした。


変なのはあたしじゃない人には見えないのに。


どうしてこの人には見えているんだろう。


あたしは男の人を見た。


そしてさらにびっくりした。


男の人の後ろには、変なのがいた。


あたしのおともだちとは違う、変なのが。


「おんなじ……?」


「そんなところだ。」


男の人はおでこの真ん中にぐっと皺を寄せて、あたしを見ていた。




あたしは、男の人と一緒に暮らすことになった。


男の人は、ひしいという名前だった。


ひしいは全然しゃべらない。


ひしいの変なのは、いっぱいしゃべる。


変なのはしゃべれるんだ。


新しい発見だ。


おともだちの変なのがしゃべったところを見たことないから、口がないんだと思ってた。


ひしいはずっと家にいる。


ひしいの変なのも、ずっと家にいる。


がっこうは転校した。


ひしいの家は、おかーさんと暮らしてたところより遠かったから。


転校したけど、あたしはがっこうに行けなかった。


行かなくちゃいけないのに、行けなかった。


ひしいはそんなあたしを見て、頭をなでた。


あたしはがっこうに行けない、悪い子なのに。


良い子しか、頭はなでてもらえないのに。


それからひしいは電話をかけた。


電話はすぐに終わった。


「ごめんよ。私が伝え忘れていた。学校中の先生が誘拐されちゃって、学校は今日からしばらくお休みなんだ。」


「おやすみ?」


「そう。だからしばらく学校は行けないんだよ。」


あたしは泣いた。


わんわん泣いた。


ひしいはあたしを抱きしめた。


ひしいのTシャツはびしょぬれになった。

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