正しさを求めて

 「西條家の人間として、正しくありなさい。」


これが祖母の口癖だ。


西條家に代々引き継がれる、魔を退ける異能の力。その力を使い、魔を滅することが正しいことだと。


幼い頃から言い聞かされて大きくなった。


「正しくあること。」


骨までしみ込んでいる、この言葉。


普通の人が持ちえない、彼らが視える目を持っている。


普通の人が持ちえない、彼らを滅する力を持っている。


特別を持った俺は、正しい行いをせねばならない。


彼らは惡で、魔と呼ばれ。


魔は、払わねばならない。


それだけのこと。




俺は知っている。


彼らに心があることを。


俺は知っている。


彼らは生きていることを。


俺は知っている。


彼らは決して、悪ではないことを。




懐にそっと忍ばせた、魔に分類される小さな友を優しくなでる。


魔法使いの後継が現れたらしい。


祖母が寮暮らしの俺をわざわざ呼び出してまで伝えたのは、そんなこと。


時機が来れば、会いに行かねばならない。


魔をむやみやたらと嫌う人でなければいいとは思うけれど、領域が違うから、関わることはそう多くないだろう。


俺は笑みの形にかたどったこの表情(フェイス)を決して崩さない。


魔を嫌う、典型的な西條家の振りもやめはしない。


大人しく待っていれば、次の当主の座と権力は俺の手に転がり込んでくる。


じっと耐えて待つことが、『正しい』選択。


「なあ、そうだろ。ヌイ。」


幼い頃に拾った、小さな魔のもの。


身体の大きさと同じように気配も小さく、頼りない。


だけど、その身から与えられるぬくもりは、俺にとっては何よりも代えがたい大事なもの。


「また、小さなあの子を傷つけてしまったようだ。これが正しい選択だと、選んだのは俺なのにさ。」


目の前で消滅してしまった、か弱き魔を見届けたあの子は直後に俺を見た。


大きな瞳を深い悲しみと、驚きで染め上げて。


真っ直ぐに俺を見た。


寮への帰り道で偶然、人の世界にかかわり、他愛無い悪さをする魔を視た。


祖母からつけられた、家の者の気配を感じていた俺はいつものように振る舞った。


魔を嫌う西條家の者らしく、その魔を払ったのだ。


そこに偶然、あの子がいて。


それを見た、魔の側に近いあの子が傷ついただけ。


俺はいつものように笑えていただろうか。


潔癖な魔のもの嫌いの西條家の者として、振る舞えていただろうか。


「キュウゥ」


懐の中の小さな友は、愛らしい声で一つ鳴いた。

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