DAY30 塔

 同じ美術部の友達がタロットカードを買ってもらって、いろんな占いをしてみたいと話している。

 真衣まいは渡りに船とばかりに「わたしのまわりの人間関係を占って」と頼んでみた。


 それじゃ結果は明日にね、と言われて真衣はドキドキしながら次の日を迎えた。


「真衣ちゃんの周りの人間関係は、これから変化があるって感じかな」


 友達が説明してくれた。


 彼女は「スリーカードリーディング」という方法で占ってくれたそうだ。

 三枚のカードを並べ、それらが過去、現在、未来を示すのを読み取るというものだ。


 過去は“戦車”の正位置で意味は前進、勝利。

 現在は“塔”の正位置で、破壊、破滅を意味する。


 破壊、破滅という言葉を聞いた時、真衣は青ざめた。

 やはり、崩れてしまうのか。今の関係を続けていくことはできないのか。

 しかも破滅だなんて、なんて不吉なんだろう。


「まぁまぁ、最後まで聞いてよ。未来は“審判”の正位置で意味は復活や改善なんだよ」


 未来に希望ある言葉が出てきてよかった。

 そこに塔が来ていたら真衣は泣いていたかもしれない。


「多分、ちょっと前から真衣ちゃんの周りで今の関係を変えたいって思ってる人がいるんだと思うよ。前に進みたい、って感じで。だからその影響が今出始めてる。真衣ちゃんが占ってって言ってくれたのって、不安だからだよね?」


 バッチリと言い当てられて、思わず真衣はうんうんとうなずいていた。


「でも塔の破壊だって、絶対的に悪い意味じゃないはずだから。壊れて作られるものが必ずしも悪いものじゃないでしょ。未来に改善の意味のカードが出てるんだし、今のままってわけにはいかないかもしれないけど、落ち込むようなものじゃないと思うんだ」


 形が変わっても、四人で仲良くしていられるなら、それは自分の思い描いてきた未来そのものだ。


「そっか、ありがとう」

「どういたしましてー」


 友人に礼を言ってから真衣は、今までと現在とこれからと、タロットの結果を考えた。


 現在のところで「破壊」と出ている。

 友達はああ言ってくれたけど、やはり破壊という言葉にはいい意味は感じられない。


 もしも真衣が武瑠たけるに告白したら、おそらく四人の関係は文字どおり「破壊」されてしまうかもしれない。

 ならば、と真衣は思う。

 今のままでいい。

 うまく変わることのできるきっかけがあれば、その時に行動すればいいのだ。


 武瑠が真衣を好きになってくれる可能性もまったくゼロではないだろう。

 そう考えると、もしかすると自分だってしんのことを好きになるかもしれないのだ。

 真も心変わりするかもしれない。


 何がどうなるかなんて、結局、これまでの積み重ねとこれからの行動次第なのだ。


 焦る気持ちもあった。

 クリスマスに思い切って武瑠に告白しようかとも思っていた。


 だが、なしにしよう。

 いずれ変わってしまうなら、今は今の関係を大事にしよう。


 この数日、心に立ち込めていた暗いものが、すぅっと晴れていく気分になった。


「真衣ー、おまたせー」


 今日もいつもと同じように、部活を終えて昇降口で集合した。


「ねぇ、クリスマスとか、みんなでどこか遊びに行きたいね」


 真衣が持ちかけると愛衣あい達は目を輝かせた。


「そういえば今年は金曜日だっけ」

「終業式だな」

「部活あるかもだけど」

「そんなの休んじゃえー」

「真はまた勝手なことを」

「えー、だってみんなで遊びに行く方がいいっしょ」

「まぁ、そりゃ……、そうかもな」


 夕暮れの通学路に、双子姉妹と幼馴染達の笑い声が響いた。



(了)


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片思いは連鎖する――双子姉妹と幼馴染 御剣ひかる @miturugihikaru

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