DAY29 白昼夢
昨日、
武瑠が愛衣を好きなんだと言ったら、愛衣はすぐに否定した。
本当に信じられないといった感じで本当に真衣の言葉に驚いていた。
ジャンバーを借りてきたのも別に真衣に対する当てつけとかではない。
それは判っている。
そもそも愛衣には直接、自分の好きな人は武瑠だとは言っていない。
けれどそこは多分バレている。
だったら、武瑠に借りたジャンバーはうちに着て帰らずに家の前で武瑠に返しておいてほしかった。
自分勝手な言い分だ。「察してちゃん」そのものだ。
それも判っている。
しかし血が上った頭でそこまでは考えられなかった。
「そんなこと、なんでわたしが教えないといけないのよ。自分で考えてみたら?」
真衣の言葉に戸惑う愛衣に、きつく言い放ってしまった。それから無視をしている。
昨夜のご飯時まで戸惑っていた愛衣は、寝る時にはいつも通りだった。
おやすみ、の一言に、真衣は何も返せなかった。
せっかく愛衣がくれた仲直りのチャンスだったのに。
言いすぎてゴメンと一言いえばよかったのに。
そして今日、昼ご飯を食べると愛衣はさっさと友達と出かけてしまった。
愛想をつかされたのだろうか。
それはないと思うし、思いたい。
けれど自分からは、なかなか話しかけられない。
武瑠の想いを受けている愛衣がうらやましいし妬ましい。
どうしてわたしの方じゃないのと悔しくて仕方ない。
自分への好意に気づかない愛衣より、わたしの方がよっぽど武瑠のことを想っているのに。
でもそんな暗い感情を愛衣にぶつけてしまえ、とも思わない。
愛衣とは仲良くしていたい。
今、愛衣がいない部屋が寂しい。
いつも愛衣がそばにいるのが当たり前の部屋が静かすぎる。
どうして変わっていくんだろうか。
小学生の頃は、このまま四人で仲良く大人になるものだと思っていた。
同じ中学、同じ高校、大学。もしも大人になって住んでいる場所は離れても四人は仲良しで、一緒に遊びに行って笑いあって。
さすがに今となっては四人同じ高校というのは無理があるのでは、とは思うが。
はっきりと目に浮かぶ、大人の姿になった自分達四人は、ずっと変わらない。
例えばカラオケに行ったとして、真はアニメやゲームの歌を楽しそうに歌い、愛衣と真衣は好きなアーティストの歌を、武瑠はみんなにあわせて選曲を替えたりして、趣味は違うけれど仲良くやっていける。
自分達四人はそんな関係で――。
「ただいまー」
愛衣の声で我に返る。
「……あ、おかえり」
幸せな夢に浸っていた真衣は、愛衣を無視していたことを忘れて挨拶を返した。
愛衣は嬉しそうに笑ってもう一度「ただいま」と言うと自分のスペースに行ってスマホをいじりだした。
ここで勇気を出さないと、あの幸せな大人時代はやってこない。
真衣はぎゅっと唇をかみしめた後、緊張を解いて言った。
「愛衣ちゃん、……ごめんね」
愛衣は「うん」とうなずいて笑ってくれた。
「わたしこそ、真衣がタケちゃんのこと好きだって気づいてたのに、ジャンバー借りたまま帰って来ちゃったのは考えが足りなかったよ。ごめんね」
それから、約一日の穴埋めをするように二人で話し合った。
真衣は、武瑠が愛衣を好きだと感づいた理由を話した。
武瑠が何か行動を起こす時は、今までの何かを替えたがっている時だった、と。
そして先日、武瑠は真衣を「真衣ちゃん」と以前の呼び方で呼んでいたと愛衣に聞かされて、あぁ、わたしのポジションは「お向かいさんの幼馴染」のままなんだなと感じた。
さらに昨日、武瑠が愛衣について行った時に真衣には声をかけなかった。今までなら真衣も誘っていた状況だった。訪れるクラスの子のことを真衣も知っているから。
武瑠は愛衣と二人になりたかったのだろう、そういう時間が欲しかったのだと察したのだ。
「へえぇ、なるほどね……。そんなふうには全然考えてなかったわ」
愛衣は真衣の考えに深く感心しているようだ。
「わたしはてっきりタケちゃんは真衣のことが好きだから特別にちゃん付けしているのかと思ってた」
「えっ、そう解釈しちゃう?」
同じ出来事なのに全く逆の感想を抱いていた双子は顔を見合わせて笑った。
「結局、タケちゃんの気持ちはタケちゃんにしか判らないよ」
愛衣が言う。
「わたしはタケちゃんのことは男の子として好きとかじゃないから、その点だけは安心して。もしも万が一、万が一にもタケちゃんのことを好きになっちゃったら、その時は真衣にきちんというから」
「万が一強調しすぎ」
また二人は大笑いだ。
愛衣と話せてよかったと真衣は思った。
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